【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
19.「これでは、主役を食ってしまうわ」
「お嬢様、とてもよくお似合いです!」
「……少し、派手すぎないかしら?」

 フォード伯爵の誕生日パーティー当日。ドロシーは朝から侍女たちにもみくちゃにされ、父が張り切って仕立てた豪奢なドレスを着せられていた。ドロシーのドレスは目の色よりも少々薄めの紫であり、デザインは綺麗系でドロシーの魅力を存分に引き立てている。元より、綺麗系の顔立ちであり、可愛らしい系統のものが似合わないことはドロシーにだって分かっていた。そのため、デザインに関して文句を言うつもりはないし、高級な素材にも文句はない。たとえ、ハートフィールド侯爵家の権力を存分に見せつけるとばかりの高級素材で仕立てたドレスだったとしても、自分が文句を言う筋合いはないのだ。

「これでは、主役を食ってしまうわ」
「……お嬢様。それをご自分でおっしゃいますか?」

 ドロシーは姿見で自分自身を見つめながら、そんなことをぼやいていた。確かに、本日の主役はフォード伯爵。だが、ドロシーとルーシャンが参加すれば間違いなく注目はそちらに移ってしまうだろう。まぁ、フォード伯爵はとても穏やかで優しい性格だと有名なので、怒りはしないだろうが。……ただし、一度怒り出すと手が付けられない……というのはジュリアナ情報である。

「お嬢様は、ルーシャン殿下と共に参加されるのですよね?」
「えぇ、お迎えに来てくださるそうよ。その後、同じ馬車で会場まで移動して、帰りも同じ馬車よ」
「……さようでございますか」

 自分で問いかけておきながら、ドロシーの表情がどんどん険しくなるのを見て、リリーは柄にもなく後悔してしまった。しかし、すぐにドロシーは元の表情に戻ると「夫婦だから、仕方がないのだけれど」という。挙式を行わなかったためか、ドロシーとルーシャンが共に参加する社交の場は正真正銘これが初めてである。周りがどう思うかは、リリーにだって見当がつく。……なんといっても、極上の美男美女なのだから。
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