【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「わ、わたくしは、ブラックウェル公爵家のエイリーンと申します。……あ、あの、その」

 エイリーンと名乗ったその女性は、頬を赤く染めルーシャンに視線を向ける。それを見たとき、ルーシャンは心の中で「またか」と思った。ルーシャンの美貌は、だれかれ構わず魅了する。そのため、こういう視線を向けられることは日常的だった。全く、嫌な慣れだ。そう思いながら、ルーシャンは心の中で舌打ちをし、余所行きの笑みを深める。そうすれば、ルーシャンの本当の気持ちを知らないエイリーンは嬉しそうに笑った。

(そう言えば、ブラックウェル公爵家の令嬢の中には……聖女見習いがいるとかなんとか、聞いたな)

 エイリーンの嬉しそうな表情を冷めた目で見つめながら、ルーシャンはそんなことを考えた。

 聖女とは、このネイピア王国を守る女性たちのことである。ネイピア王国の周辺には魔物が住まう森があり、その魔物を避けるために強い光の結界が張ってある。その結界を管理している女性こそが『聖女』たちである。聖女を輩出することは、その家にとってメリットがとても大きい。そのため、どの貴族も聖女を輩出しようとするのだ。

「……ブラックウェル公爵家には、聖女見習いがいると聞いたけれど……知っている?」

 少し、興味が湧いてしまった。そんなことを思い、ルーシャンがエイリーンにそう問いかければ、エイリーンは静かに「……それは、わたくし、でございます」と照れたように言う。その言葉を聞いたルーシャンは「そうなんだ」と適当に言葉を返した。聖女には興味がある。しかし、エイリーン自身には興味がない。そう言う態度だった。

 大体の人間は、ルーシャンに適当にあしらわれたら引いていく。だが、エイリーンは違った。ただ、「ルーシャン殿下に興味が、ありますの」と言って引かない。それを煩わしく思いながら、ルーシャンは余所行きの表情を崩さない。そこは、さすがというべきだろう。
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