【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「しかし……人の視線とは、いつ感じても煩わしいものだわ」

 馬車は綺麗に塗装された道を走っているため、揺れは少ない。だが、二人が二人とも口を閉じているため、そんな揺れの音さえはっきりと聞こえてくる。そんな中、不意にドロシーは窓の外を見つめたままそうぼやいた。

「ドロシー嬢?」
「ルーシャン殿下も、そう思いませんか? 容姿が良いということは、中身なんて見られないということ。私、幼い頃からずっとそうでしたから」

 ドロシーのその声音は、心底がっかりとしているかのような雰囲気であり、ルーシャンは少し意外に思ってしまう。ドロシーは自分の容姿に絶対的な自信を持っていた。いや、そう見えていた。だからこそ、ドロシーが自分の容姿について不満を漏らすなど、想像もしていなかったのだ。でも、ドロシーの零したその言葉にはルーシャンにも同意できることで。そのため、その言葉を否定することはなく「そうかもね」なんてドロシーの方を見つめることなく、言っていた。

「ずっと、お人形さんみたいだと、言われ続けてきた。だけど、お人形さんって結局中身を重要視されないじゃない。……私は、そこでただ座って微笑んでいればいい。そう、言われている気が、していました」
「……そう」
「異性はこの容姿に群がって愛を囁いてくるし、同性はこの容姿を煙たがる。そんな環境下に幼い頃から置かれて、まっすぐに育つわけがないでしょう。……ほら、私って結構ひねくれていますし?」
「そうだね。ドロシー嬢は俺ほどじゃないけれど、結構ひねくれているよね」
「まぁ、ルーシャン殿下はご自分がひねくれている自覚がおありだったのね!」

 その言葉は、ドロシーなりの冗談だろう。まぁ、場を和ませるために言ったのか、嫌味のつもりで言ったのかは分からないが。だが、それよりもドロシーが人を極度に嫌う理由は、大体ルーシャンと似たようなものだった。人間というものは、まず容姿を見る。中身など二の次である以上、整いすぎた容姿を持つ人間は中身など見られないに等しいのだ。
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