【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「……ま、ひねくれていないとこの離縁前提の結婚生活なんて、やっていられないわけだし? 普通だったら、さっさと離縁した方が手っ取り早いし。……ドロシー嬢のこの提案だって、面白いかもって思って引き受けた部分があるし」
「なんと性格の悪いお方かしら。……それにしても、ここまでひねくれるまで陛下も王妃様も手を打たれなかったのね」
「しても、無駄だと思ったのかもね。……それか、あの人たちは子供には無駄に甘いから」

 ルーシャンだって、大切に育てられてきた自覚はあるのだ。乳母任せではなく、きっちりと自分で子供たちを育てる決意をした母は、とにかく優しかった。父も、なんだかんだ言いながらも必死に育ててくれた。まぁ、王家である以上普通の家庭のような生活は出来なかったものの、それでも愛されてきた記憶はあるのだ。

(だから、ドロシー嬢との婚約も、嫌だったけれど引き受けたんだよね。……なんだかんだ言っても、俺も結構家族思いなのかもなぁ)

 そう思ったら、何故か笑いがこみ上げてくる。きっと、ドロシーとの婚約を拒まなかった理由の一つに、父や母をがっかりさせたくなかったからというのも含まれているのだろう。……当時の記憶など、今となっては曖昧なものだが、それでもそう思ってしまう。理由は、定かではないのだが。

 しかし、今はその選択を心の底から正解だと思っている。このドロシーという少女は、ルーシャンのことを退屈させない。普通の貴族の令嬢が好まないことを好み、好むことを好まない。まるで異国の魔物「天邪鬼」のような存在ではあるものの、変なところでまっすぐで。そんなドロシーに少しずつ、興味が湧いていた。いや、違う。きっと、この時には少しずつドロシーに惹かれていたのかもしれない。

(ドロシー嬢は、俺のことなんて好きじゃないだろうけれどさ)

 ドロシーの望みは、離縁をすること。それに、ルーシャンだってその提案を一度は受け入れたのだ。今更、覆すことなんてできやしない。……そうだ。今の段階ならば、まだ引き返せる。完全に恋に溺れてしまう前に……別れることが、出来るのだ。そう、ルーシャンは思っていた。ドロシーと一緒に未来を歩いていく可能性など、これっぽっちもないのだから。
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