【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
25.「……気楽って言うほど、気楽でもないけれどさ」
 ドロシーとルーシャンの結婚生活が始まってから、早くも一ヶ月と少しが過ぎた。ここ最近、ルーシャンはドロシーを王城に招くのではなく、自らハートフィールド侯爵家の屋敷に足を運んでいる。それがありがたいような、ありがたくないような。微妙な気持ちになりながら、ドロシーはルーシャンと対面するのが常だった。ありがたいの意味は、外を出歩かなくて済むということ。ありがたくないという気持ちは、自分の場所に踏み入れられるということ。ドロシーはこれでも警戒心が強いのだ。

「やぁ、ドロシー嬢。お邪魔するよ」
「邪魔だと思うのでしたら、帰っていただければ、と」

 ルーシャンの言葉に、ドロシーは笑顔でそう返す。しかし、ルーシャンもそれには慣れっこなのだろう、ソファーに腰を下ろすと、フードを取る。いつも通りの見た目麗しい容姿に、ドロシーは息を呑む。……本当に、容姿だけは極上なのだ。

「リリー、お茶を」
「かしこまりました」

 リリーにお茶の用意を頼み、ドロシーはルーシャンから見て対面のソファーに腰を下ろした。ここはドロシーの第二の私室のようなものだ。ドロシーが趣味にしている調合の本が所狭しと棚に詰まっており、とてもではないが令嬢の部屋とは言い難い。どちらかと言えば、図書室という言葉の方が正しいかもしれない。

(それにしても、どうしてルーシャン殿下は私の蔵書が見たいとおっしゃったのかしら……?)

 今日ここにルーシャンが現れたのは、ドロシーがコレクションしている調合の本が見たいとルーシャンが言ったからだ。彼は最近調合に興味があるらしく、王城に帰ってからも少しばかり勉強しているらしい。……まぁ、それは本人から聞いた話ではなく、ダニエルから聞いた話なのだが。
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