【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
26.「……ドロシー嬢、人の話を聞く気がないでしょ?」
(このお方も、こんな真剣な表情が出来たのね)

 心の中でそんなことを思いながら、ドロシーは「どうぞ」と貼り付けたような笑みを浮かべて返事をする。そうすれば、ルーシャンは少しだけ顔をしかめ、「……この間のパーティーのことだけれどさ」とゆっくりと用件を切り出した。

「この間のパーティーと言うと……フォード伯爵家での?」
「そうそう。……そのパーティー会場で、俺、ブラックウェル公爵家の令嬢に声をかけられたわけ」

 ドロシーの言葉に、ルーシャンは淡々とそう言ってきた。ブラックウェル公爵家。それは、王国でも名門に名を連ねる公爵家だったはずだ。ただし、そこの令嬢の名前は上手く思い出せない。ドロシーの素晴らしい記憶力は薬学にのみ作用すると言っても過言ではない。それ以外のことでは、あまり作用しないのだ。

「……えぇっと、どちら様、でしょか?」
「確か……エイリーン。エイリーン・ブラックウェル嬢」

 しかし、まさかのルーシャンも彼女の名前をよく覚えていなかったらしい。少し思い出すような素振りをしながら、その名前を引っ張り出す。
 エイリーン・ブラックウェル。その名前を、ドロシーは知らない。やはり、人間に対する興味はどうにも薄いらしい。それを実感しながら、ドロシーは「そのエイリーン様が、どうなさいましたの?」と言葉を返す。その視線は、本に向いていた。

「……ドロシー嬢、人の話を聞く気がないでしょ?」
「いいえ、聞く気は一応あります。ただ、興味がないだけです」

 本のページをめくりながら、ドロシーは目を瞑ってそう返す。実際、ルーシャンの話が薬学に関することならば、食いついていただろう。ただ、女性絡みのこととなると大方恋愛事情とかそういうことだろう。だから、興味がそそられない。どうせならば、興味がそそられる話をしてほしい。そう思うのは、ドロシーだけではないはずだ。
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