【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
28.「……バカを言うな」
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 それからしばらくして、ルーシャンは王城に戻ってきていた。淡々と王城を歩くルーシャンの後ろには、いつも通りダニエルが控えている。そんなダニエルを一瞥し、ルーシャンは考えていた。……先ほどのドロシーの言葉の、真意について。

(なんて、考えても無駄か。当初は確かにそういう約束……というか、契約だった)

 ドロシーとルーシャンは離縁を前提とした関係を築いた。だから、離縁の話をされても特に問題などなかったはずだ。しかし、最近いろいろと考えてしまうのだ。……ドロシー以上に面白い令嬢は、この世にいないのではないかと。

(ドロシー嬢は面白い。……エイリーン嬢なんて、比べ物にならないくらいだ)

 ルーシャンは面白いことが好きだ。そして、ドロシーのあの薬学への没頭ぶりは面白いものにも見えていた。初めは、見た目だけの令嬢だと思っていた。薬学をかじっただけの、小娘だと。なのに、実際の彼女はとても真剣に薬学を極めていた。その所為なのだろうか。こんな、微妙な気持ちになるのは。

「……はぁ」

 王家の私室スペースに戻り、露骨にため息をつく。そうすれば、後ろに控えていたダニエルが「殿下」と声をかけてくる。そのため、ルーシャンは振り返った。ダニエルのその目は、何処となく戸惑っていた。

「殿下は、ドロシー様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」

 挙句に、この質問である。全く、察しがよすぎるのも考えものだ。心の中でそう考えながら、ルーシャンは「別に、一応の妻」と素っ気なく返す。そう、実際そうだ。自分たちは離縁前提の結婚生活を送っている。惹かれあう必要など、これっぽっちもない。それに、何よりも。……自分だけが惹かれているかもしれないなんて、悔しくて仕方がない。
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