【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「女除けって言えば、一番ぴったりか。ドロシー嬢も、俺のことを同じように思っているだろうしさ」

 兄の部屋の前を通り過ぎながら、ルーシャンはそう言葉を返す。兄の部屋からは何やら物音がしており、どうやら兄は在室中らしい。王太子である兄は日々忙しなく働いている。そういえば、最近顔を合わせていないな、なんてどうでもいいことも思い出した。

「……殿下は」
「どうした?」
「殿下は、本当はドロシー様に興味があるのではないのですか?」

 ゆっくりと、ダニエルにそう問いかけられた。確かに、興味はある。薬学に没頭する令嬢など滅多にいないし、あそこまで極上の容姿を持つ女性もあまりいないだろう。だからこそ、興味を持っているというのは間違いない。

「……興味があるから、今だってあんな風に過ごしている」
「違います」

 ルーシャンの言葉を切り捨て、ダニエルはルーシャンのことをまっすぐに見つめてきた。……ダニエルは何処となく迫力がある。それは、ルーシャンにもよく分かっていることだ。

「殿下は、ドロシー様のことを好き始めているのではないのですか?」

 静かな声だった。その言葉を聞いて、ルーシャンは視線をそっと逸らす。好き始めている。もしも、そうだとして。

(俺はこんなにもひねくれている。だから、素直になれるわけがないし、認められるわけもない)

 易々と素直になったり認めることは、プライドが許さなかった。それは、王子としてのプライド? それとも、男としてのプライド? 今までの、女性嫌いが原因? 自分の心に何度問いかけても、それは分からない。
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