【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「……バカを言うな」

 だったら、ダニエルの言葉を蹴り飛ばした方が楽だ。そう思い、ルーシャンは素っ気なくそう言葉を告げ、颯爽と歩きだす。ルーシャンの部屋はもう少し先だ。早く戻って、一人になりたい。……そう、自分は引きこもり。こうやって外に出ること自体が、稀有なのだ。

(俺がドロシー嬢を好いているとして、今更どんな風に接すればいいんだ)

 そもそも、そうなのだ。興味から好意に変わり、恋慕に変わる。それは、ありえることなのだろう。が、自分としてはありえないと思っていた。ましてや、ルーシャンとドロシーはまだ対面して一ヶ月と少ししか過ぎていないのだ。もしも、この短期間で彼女に惹かれたのだとすれば……それは、ちょろすぎないだろうか?

「俺は、ドロシー嬢のことを好いていない。……友人としては、まだいいかもしれない。だが、妻としては無理だ」
「……さようでございますか」
「……妻として、見ることなんて」

 今まで関係を断ち切っていたことに関しては、双方に責任がある。このままで構わないと、二人とも会おうともしなかった。ただ、婚姻してからは違う。ドロシーは自分自身のためとはいえ行動した。それに対して、自分はどうだ? 行動を起こすことなどなかった。ドロシーが会いに来てくれなければ、会おうともしなかっただろう。

(……その場合、どうなっていた?)

 多分、婚姻の時と同じく離縁の紙を送りつけるだけだっただろう。彼女の顔も知らないで、性格も知らないで。

「……まぁ、俺は殿下の部下のような存在ですから。あれこれ口うるさく注意をするつもりは一切ありません。ただ」
「どうした」
「後悔のないように、生きてください。俺から言えることは、それだけです」

 噛みしめるように言われた言葉は、きっとダニエルの実体験に基づいたことなのだろう。それが分かるからこそ、ルーシャンは何も言えなかった。
< 84 / 157 >

この作品をシェア

pagetop