【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「で、ですから、殿下はお忙しいのでありまして……!」
「嘘を言わないで!」

 その言葉も、ドロシーと似ているな。そんなことを思いながらルーシャンがエイリーンを止める従者の肩を叩けば、彼は振り返りホッとしたような表情を浮かべた。まぁ、ルーシャンの表情は苦虫を噛み潰したようなものなのだが。それに気が付けないほど、従者は焦っていたらしい。

「ルーシャン殿下!」

 エイリーンはルーシャンの登場に気が付き、怒りの形相からにこやかな笑みに表情を一変させる。本当に、女性はいくつもの顔を持っている。そんなところも、嫌いだ。内心でまた舌打ちしながらも、ルーシャンは貼り付けたような笑みを浮かべた。エイリーンは公爵令嬢。そして、聖女見習い。だから、適当に扱うことは許されない。自分自身に、呪文のようにそう言い聞かせる。

「わたくし、ルーシャン殿下にお会いしたくて、ついつい王城まで通ってしまいましたわ」
「……そう」

 行っている行動は、会いたいのレベルではないだろう。心の中でそう思うが、表情は崩さない。素っ気なくあしらえば、さっさと帰ってくれるだろうから。

 そもそも、ブラックウェル公爵家の権力を使っても、ルーシャンと婚姻することは不可能だ。それは、ルーシャンが既にドロシーと婚姻してしまっているということ。それから、ハートフィールド侯爵家の権力もかなりのものであるということが大きな要因だろうか。

「聞いたところによりますと、ルーシャン殿下は妻の女性と上手く行っていないそうではありませんか」

 本当に、その情報を何処から手に入れてきたのだ。そもそも、ルーシャンとドロシーはビジネスライクの付き合いをしているようなものであり、上手く行っている行っていないの問題ではない。中途半端な情報を、鵜呑みにしないでほしい。そう、思ってしまう。
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