【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
「殿下」
「どうした」

 部屋に戻ろうと歩いていると、不意にダニエルが声をかけてくる。それに端的に言葉を返せば、ダニエルは「エイリーン様は、どういう行動を取るのでしょうか?」と問いかけてきた。……そんなもの、知る由がない。表情だけでそう伝えれば、ダニエルは少し表情を歪めた。

「……ああいうタイプは、ろくなことをしませんよ。あんな適当な返事をしておいて、大変なことになったら……」
「そこまではしないだろ。それに、そんな度胸などないはずだ」

 すたすたと歩きながらそう言葉を告げれば、ダニエルは「恋は」と小さな声で言った。ダニエルから恋などと言う単語を聞くのが意外過ぎて彼の方向を振り向けば、彼は「……恋は、人を強くします」と続けた。

「ですが、それと同時に人を愚かにもします。暴走もさせます」
「……何が、言いたい」
「いえ、この予感が嫌な予感のままで済むことを、願っているだけです」

 全く、歯切れの悪い言い方だな。そんなことを思いながら、ルーシャンは「大丈夫、だろ」と言葉を発した。その声には何処となく自信が持てない。それは、どうしてなのだろうか? そんなもの、簡単である。ダニエルの言葉が、胸に突き刺さったから。

(……嫌な予感、か)

 思い込みの激しいエイリーンの行動は、確かに読めない。公爵家の権力を振りかざすくらいならば、まだ許容範囲かもしれない。だが……もしも、聖女の力を悪用しようとすれば? その場合、別の人間たちにも被害が行くのではないだろうか。

「……おい」

 その可能性が思い浮かび、ルーシャンは少年従者に声をかける。そうすれば、彼は「は、はい!」と慌てたように返事をした。どうやら、呼ばれるとは思っていなかったらしい。

「エイリーン嬢の監視を、してこい。あの調子だと、何を起こすかが分からない」

 首を横に振りながらそう指示を出せば、彼は「承知いたしました!」と言って慌てて駆けていく。……一応、念には念を。
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