【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
(聖女の力の悪用は禁じられているし、厳しい罰がある。そんなバカなことをするとは、思いたくないが……)

 ダニエルの「恋は人を愚かにする」と言う言葉が、胸に突き刺さってしまう。その所為なのか、不安が尽きなかった。それに、一番嫌なのは……ドロシーに攻撃すること、かもしれない。

(なんだかんだ言っても、情が移ったのか)

 ドロシーと過ごすうちに、彼女に情が移ったのだろう。そう判断し、ルーシャンはまた歩き始める。この感情は、情に決まっている。一時期でも婚姻していた相手への、情。だから決して、この感情は恋などではない。そう自分に言い聞かせ、ルーシャンは目を瞑った。

(エイリーン嬢なんかよりも、ずっと……)

 その先の気持ちは、言葉にしたくない。言葉になど、出来るわけがない。実感したくない、気持ちだから。……何故ならば、やはり自分だけが意識をしているというのが、なんとなく悔しいのだ。

 おもむろに手を握り、ルーシャンはダニエルに「……一応、母上に報告しておくか」と声をかける。

「……そうで、ございますね」
「エイリーン嬢、馬鹿な真似はしないといいけれどな」

 自分の心の中に渦巻き始めた嫌な予感を誤魔化すように、ルーシャンは部屋の扉を開いた。……ドロシーへの気持ち、エイリーンへの不安。尽きない悩みに、頭が痛くなってくる。それでもきっと――いつかは、消えるはずなのだ。この二つの悩みは。
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