【完結】殿下、離縁前提の結婚生活、いかがですか?~拗らせ男女の(離縁前提)夫婦生活~ 第一部【コミカライズ原作】
32.「ちょっとやることが出来たわ。だから、私、お部屋にこもる」
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「お嬢様、こちらルーシャン殿下からのお手紙でございます」

 ルーシャンが父に魔物退治を命じられた数時間後。ドロシーの元にはルーシャンからの手紙が届いていた。それを見たドロシーは思わず眉を顰めた。ルーシャンが手紙を出すのは、週に一度程度。それに、ほんの少し前に手紙は受け取っていたので、今週はもうないと思っていた。

「……珍しいわね」

 それだけを呟き、ドロシーはリリーから手紙を受け取った。王家の紋章がスタンプされた封筒をひっくり返せば、そこには「速達」という判が押してある。……もしかしたら、急用なのかもしれない。そう思い、ドロシーは慌ててペーパーナイフで封筒を切った。

 そして、ドロシーはルーシャンが綴った文字を指でなぞりながら目で追う。そこに綴られているのは、ルーシャンが魔物退治に行くことになったということ。無事生きて帰ってくるつもりではあるが、もしかしたらの可能性を考えておいてほしいということが綴られていた。最後に書いてあるのは「少し話がしたいから、今日の夕方屋敷に行く」と端的な文章だった。

(……魔物、退治)

 ルーシャンが綴ったその文字を指でなぞり、ドロシーは脳内でその言葉を反復する。魔物は、大層強いと聞く。そんな今まで引きこもっていた王子に何とかなるわけがない……とも言い切れないのだろう。実際、ルーシャンは鍛錬をしていたと聞いているし、それが王族の務めだと理解しているようだった。

「お嬢様? どうなさいましたか?」

 呆然としていたドロシーを見てか、リリーがそう問いかけてくる。だからこそ、ドロシーはハッとして「な、何でもないわ」と言ってぎこちない笑みを作った。実際、何でもないのだ。……ほんのちょっと、ほんの少しだけルーシャンに情が湧いているのかもと思ってしまったが、それは所詮間違いだろう。……そうだ、そうに決まっている。
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