玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
前菜の盛り合わせも勿論だけど、
ナスと柚子の冷製茶碗蒸しの
お出汁が美味しくて思わず口に
出てしまう


スモークされた石鯛とタコの
カルパッチョや、炊き込みご飯など
沢山少しずつ食べれて、
筒井さんが言うように全部美味しくて
また来たいなんて思えてしまう。


食後の3種のアイスと珈琲まで
ついて3000円と聞き本当に驚いたけど
筒井さんが支払ってくれ、結局
ご馳走になってしまった。



『終末はゆっくり過ごせ。
 それじゃまた。おやすみ。』


「はい、おやすみなさい」


家まで車で送ってくれると、
軽く私のこめかみに唇を落とし
筒井さんは帰って行った。


普段なかなか会えないけど、
こうした時間が過ごせるだけで
幸せで心が満たされてしまう。


それから毎週とはいかなかったけど、
金曜日の夜は時々ご飯を一緒に食べ、
週末も筒井さんのお家で亮さんと
蓮見さん達と過ごす日もあり、
夜は眠る前に何度もキスをした。






『えっ?まだしてないの?』


「‥‥うん」


9月に差し掛かる頃、週末
菖蒲の家で一緒に晩御飯を作り
そのまま泊まることになっていた
私は、寝る前に思い切って相談を
してみた。


あれから3回ほど筒井さんの家に
泊まらせてもらってはいるけど、
その先には進めていなくて
不安になってしまっていたのだ


抱き締めてくれるし、
キスだって前よりも深く長く
してくれる。


ご飯だって一緒に食べて一緒に
朝まで眠る日もあるけど、
筒井さんはその先には進んでこない


私が初めてだって知ってるし、
初めて泊まった時に震えてしまったから
かもしれないと思うけど、
しないんですか?とも言えない。


『霞、心配いらないよ。
 筒井さんはちゃんと霞のこと
 大切にしてる。見てれば分かるもん』


うん‥‥
それは痛いくらい分かってる‥‥
でも、私の我儘で待たせて筒井さんは
ツラクないのかな‥‥


菖蒲は大丈夫と言ってくれたけど、
不安なままの気持ちで
また月曜日を迎えてしまった



『井崎さん、明日は支社から
 営業主任のお客様が見えるので、
 フランス語対応が必要になるかも
 しれないから
 よろしくお願いします。』


「はい、かしこまりました。」


秘書課から社長とお客様とのお約束の
電話を受け、パソコンに詳細を
記入していく。


10時来客予定のイリス様は、毎年
ヨーロッパの支店や
工場の視察に訪れている営業主任だ。
今回の定期視察も10日間ほどの
滞在となっている。


スイスの支社からなんてすごいな‥‥
英語とフランス語対応となっているから、佐藤さんとどちらかで対応できると
いいけれど‥‥


そんな少しの不安を抱えながら
火曜日を迎えてしまい、約束のお時間
が近づくとエントランスに社長と
秘書の方が降りて見えた。


「『おはようございます』」


『おはよう。すまないが人事の
 筒井くんをここに呼んでもらっても
 いいかね?』


えっ?
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