玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
私に気づくと電話を切ってしまった
筒井さんだけど、はっきりそれが
フランス語だと言うことも分かったし、
最後の方だけ聞こえてしまった。


「お待たせしてすみません。」

『ああ、大丈夫だ。仕事の
 電話をしてたから気にするな。』


仕事?‥‥‥。


不安そうにしてしまっていたのか、
荷物を受け取り乗せてくれたあと
頭を優しく撫でてくれた


もう少し時間が欲しい‥
答えが出ないからって言ってたけど、
私には仕事のことは話さない
だろうし、聞かなかったことに
した方がいいのかな‥‥


ガチャ


『どうぞ。』

「お邪魔します。」


もう何度目になるかわからないけど、
相変わらずドアを開けてくれて
入るのには緊張してしまう


いかにも泊まりに来ました感が
あり恥ずかしいので、荷物を
寝室に置いてからリビングに向かった


「こんばんは。」

『井崎さんおかえり。』
『霞ちゃんお疲れー』


既にお酒の席がスタートしているのか、
リビングでくつろぐ2人に挨拶をした。


蓮見さんはここの鍵を持ってないけど、
亮さんはたまにご飯を作ってくれる
から合鍵を渡しているらしい。


『シャワーしてくるから、
 適当に相手頼む。疲れたら
 無視してていいから。』


「あ、はい。」


無視は出来ないと思いながらも、
お湯を沸かしていると、亮さんが
キッチンにやって来ておつまみを
作り始めた。


『なにかあった?』

「えっ?
 なにかって筒井さんのことですか?」


チーズと枝豆に生ハムを巻いている
亮さんを眺めながらカウンターで
お茶を飲んでいる


簡単だけど美味しそうなのを
いつもパパッと作ってて勉強に
なるからだ。


『うん、なんか浮かない表情
 してるからさ。』


「どうなんですかね‥‥
 悩みがあるなら聞きたいんですけど、
 お仕事のことだと聞けないですし、
 聞いても私には何もできないのが
 もどかしいんです、きっと。」


筒井さんはいつも私が困っていたり
悩んでいると助けてくれるし、
解決してくれる。


わたしはまだ新卒で、ようやく
半年勤めただけの世間知らずだから、
答えたとしても正解が分からないのだ


せめて同い年だったらと、
こういう時に悩んでしまう‥‥


『そばに居てくれればいいよ。』

えっ?


『前にも言ったけど、今の滉一が
 穏やかでいられるのは井崎さんが
 いるからだと思うよ。
 何かをやってあげないと満足しなくて
 も、案外隣にいるだけで役に
 立ててることもあるからさ。』


隣にいることだけでいいなら、
ずっとそばにいたい‥‥
でも本当にそれだけでいいのかな‥‥
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