玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
特に辻さんって誰?なんて
聞かれることもなかったから
やっぱり知り合いとかなのかな‥‥


『お疲れ様です。』


「お疲れ様です。こちらを
 お預かりしてました。」


あれから5分も経たないうちに
受付に来てくれた筒井さんに
サインを頂いてから封筒を
渡した。


ジャケットを羽織る
スーツ姿が今日も素敵で
見惚れてしまいそうになる


『ありがとう、それじゃ。』


「はい、お疲れ様です。」


佐藤さんが休憩中じゃなかったら
届けに行ってあげたいくらい、
忙しそうだけど、お顔が見れて
嬉しかったな‥‥。


その週の金曜日は
筒井さんが人事の方達と食事に
行かれると前日にメールが来ていたので
私も久しぶりにマスターのお店に
行くことにした。


カランカラン


「マスターこんばんは。」


『霞さん、いらっしゃいませ。』


1週間働いた体に染み渡る
珈琲豆のいい香りに吸い寄せられ
カウンターに座った。


『今日は
 霞さんが来てくださったんですね。』


えっ?


「筒井さんが来てたんですか?」


おしぼりを受け取ると、ホカホカで
気持ち良くて両手を温めた


以前だって週に3回くらいは
見かけてたから1人で飲みに来てても
不思議なことじゃない


やっぱりここは筒井さんにとっても
癒しの場所なんだろうな‥‥


「今日はオススメにしても
 いいですか?チョコレートを
 持って来てるんです。」


『かしこまりました。
 筒井さんも近頃はチョコレートを
 持って来てお友達と飲んでますよ。
 私もその度に毎回違うチョコを
 頂いてます。』



ローストした豆をガリガリと削る
マスターの言葉に、筒井さんがここで
1人じゃないことに少しだけ気になった


私がアルバイトをしてた頃は
必ず1人で来てたから、他の人と
来てるなんて驚いたしやっぱり
気になってしまう


『お待たせしました。』


「ありがとうございます」


ここに来る時は誘って欲しいなんて
我儘だろうか‥‥。


なかなか会えないのに、
ここにはその誰かとよく来てるなんて
聞いてしまうと少しだけ悲しい。


筒井さんにだって私の知らない
交友関係があると思うから。


『それにしても、寂しくなりますね。
 フランスなんて遠い場所に何年も
 筒井さんが行かれて
 しまうなんて‥‥』


‥‥‥‥‥えっ?
フランス‥‥‥?

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