玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
マスターが何を言っているのか
理解できなかったけど、
多分、私が知っていると思い
話してると気付いたので、
悟られないようにチョコレートを食べた


「そうですよね‥‥
 とても寂しくなりますね‥‥」


頭を鈍器で殴られたような衝撃に
ここが喫茶店じゃなかったら
動揺し過ぎて泣いていただろう‥


筒井さんがフランスに?


何処からそんな話になってしまったのか
いつから決まっていたのかすら
何にも知らない‥‥


ううん、まだほんとのことかも
分からない。
筒井さんから直接聞かないと、
まだ信じられないし信じたくない。


あのあとマスターと何を話して
いたのか分からないくらい
頭の中が真っ白な状態で
家に帰ってくると、
ソファに座った途端
両手が一気に震え出した


筒井さん‥‥本当に
いなくなってしまうの?


少し出張とかじゃなく何年もなの?


先週フランス語で誰かと
話していた言葉が今になって
思い出され涙が溢れてきた


仕事だって分かってる‥‥
もしこれが本当の事でも、
笑顔で送り出さないといけないし、
困らせてはいけないって。


筒井さんがどんなに忙しくても、
会社で顔を見れたり、時々ご飯に
行ったり、朝まで一緒に眠ったり
することを知ってしまったら、
それがなくなるなんて考えられない。


だったらまだ片思いのままのほうが
どれだけ良かったか‥‥‥


筒井さん‥‥
今どうしようもなく会いたいです


大丈夫だよ、心配いらないよって
安心させて抱きしめて欲しい‥‥


ボロボロと零れ落ちる涙に、
私は子供のように声を出して泣いた



そして話が出来ないまま迎えた次の
土曜日の朝早く、無情にも
別荘に行く日が来てしまったのだ


1週間時間が空いて落ち着けて
良かったのかもしれない。
本当は別荘に行く前に知りたくなかった
けど、昨日聞いていたら泣きすぎて
行けなかったかもしれないから‥


前回も自己嫌悪で泣いて、
こんな状態なら別荘に入れられないって
言われたから、同じことを繰り返しのは
絶対嫌だった


よし!
大丈夫
この2日間だけは楽しまないと!


準備万端に終えた私は、
ちょうど下に着いたという
メールに急いで家を出た。



「おはようございます。
 お待たせしました。」


『おはよう。
 フッ‥相変わらずすごい荷物だな?』


いつものように車の外で
煙草を空いながら私の手から
荷物を受け取るとトランクに
積んでくれた。


変わらない優しい表情に
笑顔を向けると、伸びて来た手が
優しく頭を撫でてくれる


「亮さんはいないんですか?」


『拓巳と古平と買い出しがてら
 先に行ってる。』


そうなんだ‥‥
なんとなく2人より亮さんがいた方が
気が紛れるかな、なんて思ってたから
少しだけ緊張してしまう


「また賑やかで楽しそうですね。
 また行けて嬉しいです。」


『‥‥そうだな。
 あまり飲みすぎるなよ?』
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