玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
丁寧なお辞儀と言葉遣いは
マスターに習ったものであって、
面談なんて関係なかったんだと思う


フラれる時に告げられた
あなたの丁寧な接客が好きだったと
言ってもらえたことが頭をよぎる


「ありがとうございます。」


泣きそうな顔で笑うと、
一瞬筒井さんの目が
大きく開かれた気がした


そこでも丁寧に頭を下げて席に戻り、
菖蒲や他の同期の所属先を聞き、
新入社研修は全て終わった。


『お昼休憩をして13時から17時まで
 新しい配属先にそれぞれ向かい、
 そこにいる担当者に従ってください。
 昼食は明日より
 社員食堂で可能なので、
 今日はここでお願いします。』


長いようで
あっという間の研修が終わり、
筒井さんが会議室を出て行く際に
目があったので座ったままだったけど
小さく頭を下げた



『霞、お昼にしよ!!受付なんて
 凄いじゃない!!会社の顔だよ?
 霞は美人だからエントランスにいても
 似合いそうだね。』


美人!?
目の前の綺麗な菖蒲に言われると
かなりツラい‥


「菖蒲は企画部希望が
 通ってよかったね。おめでとう。」


他の同期も、研究室や営業、経理など
それぞれ第一希望の部署に入れたらしい


私は筒井さんが
選考してしてくださったから、
自分の意思ではないけど、まずは一月
社会人としてこの環境に慣れていきたい


『部署は別れちゃうけど、
 仕事終わりやランチは
 一緒にしようね。』


「うん、ありがとう。菖蒲がいて
 本当に心強いよ。」


お弁当を食べ終わった後、
同期で写真を撮ったりして
時間よりも少し前にそれぞれの
各部署に向かうことにした。


エレベーターホールで
自分の部署をみんな
確認していたので私も総務課を探す


‥‥‥えっと‥あ、総務課は7階だ。


この間見学した時は
いっぱいいっぱいだったし、
非常階段で移動していたからみんな
ちゃんと覚えていないようだった


『霞は7階、私は9階だね。
 半日ドキドキするけど頑張ろう。』

「うん‥‥」


総務課の隣に記されていた
人事課の文字にそういえば
同じフロアだったなって気付き
少しだけ落ちこむ


関わることはないと思うけど、
同じフロアだとすれ違うことは
あるとは思う


一階の受付だから
その辺はホッとするけど、
思ったよりも近いその距離に
胸が締め付けられた



「失礼します。研修を終えて
 配属されました井崎 霞です。」
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