玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
私よりもずっと大人で落ち着いてて、
住んでる世界すら違う人だと
思ってたのに、
こんなふうに笑う姿を見ていると、
勝手な私の想像だけで作り上げていた
だけで、親しみやすい人なのかも
しれない



「な、何かおかしかったですか?」

 
『‥‥いや、すまない。
 井崎さんの知らない色んな表情が
 あったんだなって思ったから。』


えっ?


筒井さんも同じようなことを
考えていたなんて思わなかったから、
私もつられて笑ってしまい、その後
慌てて口元を手で押さえた。


しまった‥‥すごく上の上司の人と
職場でこんなふうに接してしまって
すごく後悔する


「あの‥‥すいません‥つい。」


『謝られるようなことなんてない。
 そうして笑ってた方がずっといい。
 それじゃこれから会議だから、
 無理せずに。お疲れ様です。』


「あ、はい!‥‥お疲れ様です。」


たった数分の事だけど、
昨日の珈琲店からでは考えられないほど
自然に話せた‥‥


もっと気まずくなるんじゃないかって
不安ばかりだったけど、
筒井さんはやっぱり大人だから
部下としての私にも公私を混同せず
接してくれている


急には無理かもしれないけど、
筒井さんは何も悪くないのだから、
私が変わらないいけない。


厳しすぎて怖い上司より、
みなさんとても優しいから
ありがたいと思わないと‥‥


とにかく
元気をもらったから頑張ろう‥‥


少し冷めてしまったカフェオレを飲むと
お手洗いに行ってから
急いで古平さんの元へ向かった


「休憩ありがとうございました。」


『お帰り。一本電話だけいい?
 その後エントランスに向かうから。』


「はい、大丈夫です。」


隣に座って待ちながらも、
総務課と人事の間につい立てられた
木目のパーテーションの方に
視線を向けた


細い木が何本も等間隔に建てられ、
完全に向こう側が見えない
パーテーションじゃないため、
光も入るしそのおかげで
フロアが広々と感じる


みなさんとても綺麗でオシャレだから、
リクルートスーツの私は
いかにも新人ですと
いうのが分かるくらい目立つ


慣れてきたら
私もみんなみたいにオシャレして
メイクももっと頑張ってみたいな‥‥


『井崎さんお待たせ。
 じゃあ行こうか。』


「はい、よろしくお願いします。」


『蓮見さん、井崎さんに受付業務を
 教えたいので一階にいます。
 何かあったら
 フロントに電話お願いします。』


『了解、霞ちゃん頑張ってね。』


「は、はい、ありがとうございます。」


霞ちゃんってずっとこれからもそう
呼ぶのだろうか‥‥?
他の社員さんも名前で呼んでるし
みんな気にもしてないから
何も言えないけど‥‥


頭を下げると古平さんと共に
エレベーターに乗り込み
一階まで向かった。
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