玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
『お辞儀の仕方は丁寧だったけど
 ここでのお手本はこうよ。
 佐藤さんやってみて?』


『はい。井崎さん見ててね?
 ロータリーにお客様が見えたら、
 おへそのすぐ下のあたりで
 左手を下にして
 右手をクロスにして重ね、
 腰から45度に
 折るようにして頭を下げます。
 1.2.3と数えたらまた
 腰からゆっくり体をお越して
 元の位置に戻る。
 どう?分かりにくいところある?』


「いえ‥‥‥とても美しいです‥」


惚れ惚れしてしまいそうなほど
無駄な動きがなく、品があって美しい。


それに口角が上がっているのに、
控えめで品があるし
笑顔も伝わる表情ですごく綺麗だ‥‥


『美しいなんて‥‥ふふ
 これを井崎さんもやるのよ?
 じゃあ練習してみようか。』


「はい。」


何度か練習をすると、山崎さんが
スマホでそれを撮影してくれて
画像を見てはダメなところを
もう一度確認しながら
お辞儀を繰り返した。


『うん、だいぶ良くなってきたね。
 次は挨拶の仕方を教えます。
 電話口ではもしもしは禁止。
 1コールでは出ず
 必ず2コール目で出ること。
 どうしても来客対応と被って
 しまって3コール以上になったら、
 必ずお待たせして申し訳ありませんと
 企業名の前に添えつけてね。』


『よっぽど1人が来客対応で1人は
 電話に出れるようにはしてるけど、
 4コールを超えると一旦
 上の総務課に自動的に
 繋がるようになってるので
 来客対応優先で大丈夫。』


お昼休憩の時は1人になるんだ‥‥

それを考えただけでも
ゾッとしてしまう。


研修中のこの一月は
山崎さんがいるけど、
重なってしまったら
パニックになりそうだ


『大丈夫よ、サポートするから、
 ドーンと構えてなさい。不安な顔は
 絶対ダメだから、下手でもなんでも
 笑顔は絶やさないこと。』


もうすぐ母になる山崎さんの逞しい
励ましに肩の力が少し取れるものの、
17時を迎える頃には思った以上に
頭も使ってクタクタになっていた。


明日と明後日はとりあえず休みだから
ゆっくりしよう‥‥
リフレッシュもしないとダメだ‥‥


受付の先輩方に挨拶を済ませると、
エレベーターに乗り総務課へ一度
戻ることにした。



受付業務の日は
基本は残業はないけれど、
業務が残っている時は
ケースバイケースで
1時間ほど残ることもあるという


『おっ、お帰り霞ちゃん。』


ドクン‥

 
古平さんのデスクに
まさかの蓮見さんがいて、
なんとなくさっきのこともあり
近寄るのを躊躇ってしまう



『ねぇ?今日この後ご飯行かない?』


えっ?


『蓮見さん!初日で疲れてるから
 やめてあげてくださいよ。井崎さん
 断っていいよ、こんなのこれから
 嫌っていうほど誘われるから。』


『こだちゃんひどっ!!
 もしかして今まで嫌だったの?』

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