玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
てっきり親睦を深めるなんて
言ってたから、
真面目な仕事の話になるのかなと
思っていたけど、全く仕事の話は
出てこなかった。


オンオフをちゃんと分けてるかな‥‥
私はそういうのが下手くそだから、
帰っても仕事のことを
色々考えてしまいそうだ


驚いたことに筒井さんも蓮見さんも
この若さで既にマンションを
買っていて、
賃貸暮らしの私とは住む世界がすでに
違う人だと改めて感じる


『駅からは結構遠いのか?』


優しく丁寧に話す筒井さんはどこへ
行ったの?というくらいオフの時は
男らしい。
勿論ジェントルマンだけど、
だんだんその話し方にも慣れてきた。


「歩いて10分くらいです。」


『そうか‥‥
 暗くなる季節だと危ないな。』


『霞ちゃん可愛いからねぇ?』


「な、何言ってるんですか?
 可愛くないです。
 さっきの方達みたいに
 綺麗な方が会社に沢山
 いらっしゃるので、
 私なんて子供みたいなものです。」


リクルートスーツにヒールもなく
フラットに近いパンプス。
黒髪に緩めのパーマはかけてるものの、
大人の色気すら全くない


筒井さんたちにはああいう方達の方が
すごくお似合いだし、私は引率されて
連れてこられた新人のようだから



『プッ‥‥霞ちゃんはあんな風に
 ならない方がいいよ。
 なんかこけしみたいで可愛いから。』


こ、こけし?
それは褒め言葉なの?


分かりきってる事だけど、
筒井さんにもそう見えてるのだろうか‥


『拓巳のことは話半分に聞けばいい。
 井崎さんはそのままで
 いいってことだから、誰かの真似を
 する必要もない。』


「でも私は大人になりたいんです。」


真剣な瞳で筒井さんを見た後、
恥ずかしくなって俯くと、急に
頭に触れてきた手に驚いて肩が縮んだ


筒井さんが頭を撫でてくれ、
それを見た蓮見さんは席から立ち上がり
あろうことか私を抱き締めてきた。


『拓巳。離れろ。』


『えーだってなんか可愛くてさー。』


頭を撫でていた手が抱きつく蓮見さんの
腕を引き剥がし低めの声で
蓮見さんの名前を呼んだ。


何がおこっているのか分からずに
固まる私から蓮見さんが
ようやく離れると
クスクス笑いながら席に戻って
嬉しそうにワインを一口飲み
ニヤリと笑った


『霞ちゃん、やっぱり君は特別だね。』


『井崎さん大丈夫か?
 セクハラで訴えるなら
 いつでも相談にのるから。』


『酷ぇ、俺のはセクハラじゃなくて、
 親友への挨拶だから。』


特別とか親友とか
蓮見さんの言ってることは
全く分からないけど、2人のやり取りが
なんだか面白くて思わず笑ってしまった
 
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