玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
「す、すいません‥上司に向かって」


『フッ‥今はもう仕事中じゃない。
 IDを通して会社から
 外に出たんだから
 気にしなくていい。』


『そうそう、滉一なんて二重人格だろ?
 仕事とオフは違うから霞ちゃん
 ビックリしたんじゃない?』


もう一度頭を筒井さんに
軽く撫でられると、
口元を押さえていた私の手を
取られてしまった。


確かに筒井さんはいろんな顔がある。
最初こそ印象が変わって驚いたけど、
それでもどれも全く嫌じゃない。


「‥‥どれも筒井さんだと思うので、
 丁寧な話し方も今みたいな話し方も
 私はす、あ、
 す、素敵だと思いますよ?」


危ない‥‥
思わず好きっていうことろだった。



『‥‥ありがとう。
 でもまだまだ乱れた俺のこと
 知らないからひくかもしれないぞ?』


「み、乱れるって‥
 何言ってるんですか?」


『あー霞ちゃん何考えてるのー?』


「えっ?何も考えてませんから!
 あ、あの、蓮見さんはずっと
 変わらないですね?
 古平さんが仕事はすごくできる方って
 褒めて見えたのですが、
 女性の皆さんに
 ちゃん付けなのには驚きました。」



筒井さんが急に変なこと言うから、
顔が一気に熱くなり
お水を沢山飲み込んだ


でも乱れるってどういうこと?
お酒を飲んで酔っ払うと変わるとか?


『俺は疲れるからこれでいいんだよ。
 その方が話しやすいでしょ?ね?』


確かに上司だし、
異性だけどすごく話しやすい。
それは私だけじゃなく総務の人みんなが
思っている気がする


『馴れ馴れしいのも嫌われるぞ?
 井崎さん本当に嫌なことされたら
 言って。分かった?』


『はぁ?滉一だって頭撫でてたし
 一緒だよ!霞ちゃんのこと
 可愛いと思ったからだろ?』


ドクン


さっきと合わせて2回も撫でられた
頭は、単なる若者の私への慰めや
子供扱いだと思うから
可愛いなんてそんなことはない



『フッ‥。そうだな』


えっ?


小さく笑って聞こえないくらいの声で
言った言葉に一気にまた顔が熱くなり、
残りのお水を飲み干す


恋愛対象ではないとしても、
好きだった人にそれとなくニュアンスが
似た言葉を言って貰えるだけで
おかしくなりそうだ。



『よし、そろそろ行くか。
 霞ちゃん滉一が車持ってくるから
 ここで待ってようね。』


「えっ?そんな‥私電車で帰りますよ?
 まだ21時前ですし。」


蓮見さんは飲んでしまったから
筒井さんが送ってくって
さっき言ってたけど、
私は駅も近いし
そこまでしてもらうのには
申し訳なくて無理だ


『井崎さんこれ持ってて?』


「えっ?‥なんですか?」


掌に何かを乗せられ
ギュッと握らされると、
筒井さんはお店から出て行ってしまい
掌を開けるとそこにはカードキーが
あった。


『あーあ、これで帰れないね?
 それアイツの家の鍵だから。』


「ええっ?
 なんでそんな大切なもの‥‥」


『送ってくから待ってなさいって
 ことなんじゃない?』

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