玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
本当にこれじゃ筒井さんが家に
入れないから帰るわけにもいかない。


「あ!!
 蓮見さんが鍵を返してくだされば
 いいじゃないですか!それじゃあ
 よろしくお願いします。今日は
 ご馳走になってしまいすみません。
 楽しかったです。」


『あ、おい!』


ここに1人だったら
逃げれなかったけど、
咄嗟に思いついて良かった‥‥


食事代は筒井さんと蓮見さんが
出してくださり
ご馳走になってしまったから、今度また
筒井さんにもきちんとお礼がしたい



電車に駆け込み乗ると、
どっと疲れが出てしまったのか、
緊張していたのか一気に力が抜けて
窓際にもたれかかる


筒井さんと食事しちゃった‥
楽しかったな‥‥‥


出会いこそ紳士のような筒井さんで、
穏やかで大人で物静かな
イメージだったけど、
この1週間で、ぶっきらぼうな部分や、
男らしかったり、少し口が悪かったりと
知らない姿が沢山見れた



今思えば、珈琲店で見ていた筒井さんは
学生の私の憧れだったのかもしれない。
それでもあの気持ちが全部
嘘だったわけじゃない。


頭を撫でてもらったり、腕を掴まれたり
色々あった1週間だったけど、
ここがスタートラインだから
頑張って上がっていけるといいな‥‥


その日は疲れてることもあり
次の日の昼まで爆睡してしまい、
部屋の片付けをしてから
アルバイトで貯めたお金で会社用の服を
買いに行くことにした。


普段がカジュアルなだけに、
スカートってなかなか履かないけれど、
受付以外の日はみんな私服だし
何着かは必要不可欠だ


都内の大型デパートに行き、
普段は入らないようなショップで
手にとっては色々
合わせてみたりするものの、
いまいちどれも似合わない


そのままでいい‥‥か。
筒井さんの言葉がフッと思い出される


八木さんと呼ばれていた人のような服を
手に持ったまま、
鏡にうつる自分を見つめ直し
いつも買うショップがあるデパートや
路面店に足を伸ばし、
カジュアルすぎない
落ち着いた服を何点か購入し、靴も3センチヒールのシンプルな黒のパンプスを
買うことができた。


これなら受付の時でも履けそうかな‥‥


背伸びをせず、
今の自分よりもほんの少しだけ
違う自分になれればいい


もう少し人間的にも年齢的にも
大人になれた時はあそこで手に取った
服が買えるかもしれないから
楽しみにとっておこう


小さめのシンプルなピアスもついでに
購入したりストッキングの変えを沢山買ったりと色々してたら
両手が袋でいっぱいだったので、
歩いてると大変になってきて
近くにあったオープンテラスのカフェで
休憩をすることにした。
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