玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
「すみません、お待たせしました。」


私を見つけると
携帯灰皿にタバコを消して入れてから
そばまで来ると私の両手から
荷物を簡単に奪ってしまった


『はぁ‥‥こんなに買って
 どうやってあれも持つんだよ。』


「ハハ‥‥すいません、
 そ、そうですよね‥」


呆れたような顔をしている筒井さんに
苦笑いすることしか出来なくて、
後ろに荷物を乗せるとまた助手席を
開けてくれた。


「ありがとうございます、筒井さん」


お辞儀をしてから
また乗らせてもらうと、
そこから家まではあっという間で
すぐに着いてしまった。


荷物を1人で持てるって言ったのに、
聞いてくれなくて、結局玄関先まで
運ばせてしまうことになった。


「本当にすみません。助かりました。」


『気にするな、偶々だったけど俺が
 いなかったら手がちぎれてるぞ?』


ちぎれるって‥‥
確かに一回でこれを全部運ぼうとしたら
大変だったかもしれない


「貴重なおやすみを
 部下のために使わせて
 しまってすみません。気をつけて
 帰られてくださいね。」


狭い玄関で靴を履いたままの筒井さんと
向き合うと、頭に優しく触れた手が
髪を2、3度撫でてきた。


『今日は部下じゃないだろ?』


えっ?


『ゆっくり休め。来週はきっと
 もっと疲れるから体整えないと
 キツいぞ?それじゃ。』


「ツッ‥‥」


至近距離での大人の色気と触れる手に
体がカチカチに固まってしまい
何も言えない私を見て小さく笑うと、
筒井さんは帰ってしまった。


バタンと扉が閉まる音で私は
その場にぺたんと座り込んだというか
体から力が抜けていく


‥‥‥今日は部下じゃない?
‥‥なら一体なんなの?


「はぁ‥‥‥」


何が何だかもう分からなかったけど、
緊張からか物凄く疲れてしまい、
片付けをした後そのまま
夕方までソファで眠ってしまった



お茶くらい出した方が良かったかな‥
でも家に上がってもらうのも
なんか違う気がしたし‥‥


日曜日になっても常備菜を作りながら
モンモンと考えてしまい、
冷蔵庫からチョコレートを
取り出すと口に放り込んだ



気にかけて下さるのはありがたいし、
勿論嬉しいけど、距離感がなんかさ‥‥


「うわっ!!」


ぼーっとしていて、
吹きこぼれに気付かず
慌てて火を止めたけど、コンロの周りが
かなり水浸しになってしまう


明日からまた仕事が始まる‥‥


気が緩むと失敗しそうだから、
研修中に聞けるところは聞いて
頑張らないといけないな。


午後は今までとってきたメモや
お辞儀の仕方を練習したりと結局
仕事のことを考えてしまったけど、
早めに眠り次の日に備えた
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