玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
言の葉
4月は人事や総務だけではなく、
他の場所も新体制でスタートするので、
他のことなど考える余裕もなく先輩方もとても忙しそうだった。


1週間が終わり、週末は体を休めると
また1週間が始まり、あっという間に
時間だけがどんどん過ぎていく


『井崎さん!
 急ぎで50部ずつコピーとった後、
 この資料の入力お願いしてもいい?』


「は、はい、かしこまりました。」


古平さん沢山の仕事に追われていて、
金曜日意外は殆ど残業を
していたので、来年は私ももしかしたら
これくらいの量をこなせるように
なっていないといけないと思わされる


まだ私にできることは少ないけど、
他の方がデスクで集中できるように、
他部署へのおつかいや簡単な入力、
補佐やコピーは進んでなるべく
やるようにしていた。


せっかく買った大人っぽいヒールの靴も
受付に立つ日以外は走り回る為、
結局ローヒールが1番動きやすく
あまり活躍していない


備品の管理だけでも、各部署から電球や
コピーのインク、用紙など、
リアルタイムで総務に発注依頼があり、その度に地下の購買に在庫を確認して取りに行き各部署のコピー機のインクを補充したりもしている。


雑用と言われれば
そうなのかもしれないけど、
他の部署の様子も行く度に見れるし、
慣れるという意味では良かった。


問題は一階の受付に立つ日だ。


なかなか慣れずで、走り回っていた方が
自分にはあってるとさえ思うくらい
緊張が解けない時間だったのだ


『井崎さん、手の位置がずれてたよ。』


「す、すいません!」


電話応対は外部からのものはまださせて
もらえないものの、各部署からの
来客の予約などは数回させてもらい
パソコンに入力したりは1人でだいぶ
できるようになってきた


ホッとする時間がなく、常に誰かに
見られてるこの場所が会社の顔と
言われるのもよくわかる‥‥


企業によっては秘書課の方が
受付を任されることもあるらしいくらい
大切な持ち場だと教えられた


今は先輩方の行動をとにかく
真似をすることしか出来ないし、
ダメなところを言ってもらえる
うちは沢山教えてもらいたい



『休憩入りますので
 よろしくお願いします。』


『行ってらっしゃい。』


佐藤さんが休憩に行かれたので、
山崎さんと1時間2人になると
この時間が1番ドキドキしてしまう


どちらかが電話か
応対に掴まってしまうと、
誰にも聞けない状態で1人で
こなさないといけない。


まだ受付業務が数回しか出来ておらず、
教えてもらえることはその都度頭に
叩き込むものの、不安で仕方ないのだ。


ちょうどその時、
エントランスの向こうに
車が一台停まったので山崎さん続き
姿勢を正してお出迎えの状態を作った


プルルルル


えっ?


‥‥こんな時に電話!?


『井崎さん社内用だから出て?
 今見えた方、応対がきっと
 難しい方だから。』


「は、はい、分かりました。
 ‥‥お疲れ様です。
 一階受付の井崎です。」


『(お疲れ様です。
 人事の筒井です。)』


‥‥筒井さん!?


嬉しいと思う気持ちを噛み締めたいのに
1人きりのタイミングでやっぱり緊張が
増してしまう



『(来週の12日木曜日の
 11時から〇〇産業の
 平子さんが見えるから、第2会議室の
 予約と、上までの案内を
 お願いします。)』


「かしこまりました。12日木曜日の
 11時に〇〇産業の平子様と、
 第2会議室ですね。使用時間は‥‥」



筒井さんの話を一言一句
間違えないように聞いていると、
目の前に来られたお客様に圧倒されて
思わず固まってしまった。


背が高くて美しいブルーの瞳と美しい
ブロンドの髪に、グレーのスーツと
深緑のネクタイがとても素敵で
思わず見惚れてしまう。


『hello,welcome to our company.Mr.
  it looks like you haven't made
  promises today. Was it an
 urgent matter?』
(こんにちは。ようこそ我が社へお越しくださいました。本日はお約束はされてないようですが、お急ぎの件でしたら担当のものをお呼び致します。)


『‥‥‥ Je suis venu voir un ami.』


えっ?
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