玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
今の言語って‥‥もしかして‥‥


美しい英語を話した
山崎さんに向かって、困ったように
腕組みをした男性は、
英語以外の言葉を返してきたのだ。




『(井崎さんどうかした?)』


「あ、その‥‥外国の方が‥‥。
 つ、筒井さん、時間枠は
 1時間でお取りして大丈夫ですか?」


『(ああ、それでいい、よろしく頼む。
 それより大丈夫か?)』


「分かりませんがサポート出来るかも
 しれませんので失礼します。」



筒井さんの予約を
パソコンに入力完了すると、
また相手の人が何かを話し始めた。


『Il n'y a pas de
 secrétaire aujourd'hui.
 Je voulais manger de
 délicieuxplats .
  japonais avec lui.』



『フランス語だわ‥‥秘書課に話せる
 人がいるから井崎さん電話を‥
 えっ?』


「S'il vous plait,
 dites moi votre nom」
(お名前をお伺いいたします。)


たどたどしいフランス語では
あるから不安なものの、笑顔で
お客様の目を見て丁寧にお辞儀をした。


『Mon nom est Josh.
 La personne que je veux rencontrer est le président ici.』
(ジョシュだ。
 僕が会いたいのはここの社長だよ。)


「J'ai compris.
 Je vais vérifier, alors s'il vous
 plaît, allez-y.
 Veuillez vous asseoir
 et attendre.」
(かしこまりました。
 確認いたしますのであちらに座って
 お待ちくださいませ。)」


『merci!』


男性がロビーのソファに座ると、
深呼吸をしてからすぐに
社長室の秘書課に電話をし、
ジョシュ様がいらしてることを
伝えると、少ししてから社長が
秘書の人と一緒にエントランスに
やってきた。


良かった‥‥


秘書の人はフランス語が話せるようだし、社長のご友人と聞いて緊張したけど、嬉しそうにハグする2人を見てホッとした。


『井崎さんありがとう‥あなた
 凄いじゃない!本当に困ってたから
 素早い対応で感心したわ。』


ジュシュ様が帰られる際に私の元に来て
ハグをしたのには驚いたけど、
嬉しそうに手を振り
社長と一緒に出かけて行ったのだ。


「いえ‥そんな‥。大学でたまたま
 フランス語を専攻していたので、
 多分ところどころおかしくて
 間違ってたかもしれませんが
 伝わって良かったです。」


今頃になって
受話器が外れたままになっていて
その件については別途
注意を受けてしまったけど、
受付で初めて先輩に褒めていただけて
やっぱりそこは素直に嬉しかった。


あと1週間で研修期間も終わりで、
仮部署期間も終わってしまう。
総務の人たちが厳しいけど温かくて
いつのまにかこのまま
ここにいたいとすら思えていた。
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