玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
大人に見られたいのに見てもらえない。


そんなことは
分かりきっていることだけに、
目頭と鼻の奥ががツンっと熱くなり
泣きそうな顔に気付かれないように
窓の外をずっと眺めていた。


『井崎さん着いたよ。あー疲れたねー』


『は?隣に乗ってただけだろ?
 帰りは亮が運転だからな。』


途中から車に乗っていることが
少しだけ息苦しかったから、ようやく
降りれることにホッとしていると
後部座席のドアが外から開けられた



「‥‥ありがとうございます。」


『‥‥‥』


筒井さんの視線を感じながらも何故だか
目を見ることが出来なくて俯いたまま
降りるとお辞儀だけして仲崎さんが
開けていたトランクから荷物を持った。


「すごい量のお酒ですね?
 これ全部飲まれるんですか?」


トランクの半分はしめていたビールや
ワインなどのお酒類の多さに驚くと、
仲崎さんは人差し指を立てて
小さく横に振りニヤリと笑った


『全員お酒は強いからね。
 これでも足りないか
 心配なくらいだよ。』


嘘でしょ!?
蓮見さんは強いって聞いてたし
筒井さんも飲まれるのは
知ってたけどこれでも
足りないってどれだけ強いの?


『井崎さんも飲めたりする?』

「あ、はい嫌いではないので飲めます」


『それは駄目だ‥。
 すぐ顔が赤くなるだろ?』


私の後ろに立つ筒井さんが言った言葉に
いつもなら、そうなんですよとか
なんとかその場のノリで言えるのに、
なんて言っていいか分からずに俯く


『へぇ‥‥‥そっか。
 じゃあ少しだけにしとこうか。』


「はい。」


また子供扱いされたことがどうしても
悲しくなり、やっぱり来なければ
良かったのかなって思えてしまう


大学の友達とくだらない話をしながら
楽しくご飯を食べているほうが
私にはきっと似合ってる‥‥


『亮、悪いけど荷物持って
 先に行っててもらえるか?』


『‥‥ああ、分かった。』


私もお手伝いしようとお酒の入った
紙袋を待とうとしたら、
私の手に重なるようにして筒井さんが
それを奪った。


「‥‥私も持てます。」


『やらなくてもいい、重いから。
 それよりさっきなぜ泣いたんだ?』


ドキン


さっき泣きそうになっていたことを
言っているのだろうか‥‥
涙は流してないし横を向いていたから
見られてないと思ったのに。


「泣いてません。」


『そうか‥‥じゃあなんでさっきから
 俺の方を見ないんだ?』


紙袋をもう一度トランクに置くと、
トランクに少し腰掛けてから、煙草を
取り出し火をつけた


『言いたくないなら
 無理に言わなくてもいい。
 ただ周りの雰囲気を悪くするなら
 中に連れていくことは出来ない。』
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