玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
ここに座れと言われているかのように
筒井さんに手首を掴まれると
少しだけ引き寄せられ隣に座った


「‥‥‥‥すみません。
 ‥‥ただの自己嫌悪です。」


筒井さんにとったら
きっとどうでもいいことで、
ただただ縮まらない距離にモヤモヤして
子供扱いされる度に悲しくなった。


こんなことを考えて迷惑かけてる
時点でやっぱり私は
まだまだ子供なんだと思う。


『これからそんなこと嫌というほど
 社会では経験することになる。
 見たくないこと、聞きたくないこと
 受け入れたくないことから逃げられず
 苦しむことだって出てくる。
 そんな時、これからもこうして1人で
 何も言わずに泣くのか?』


別荘から話し声が聞こえてきたので、
今にも泣きそうな目に力を入れて
グッと堪える


えっ?



突然私の手を握ると立ち上がった
筒井さんに引っ張られ、
別荘から下道へと続く階段の方へ
連れて行かれ、少し下った真ん中辺りで
ようやく腰を下ろした。


「筒井さん‥‥ごめんなさい‥‥」


握られたままの手を離すことなく
隣に座らされると、我慢していた涙が
ポタポタと溢れ始めてしまう


『今出来ることを
 やればいいんじゃないのか?
 前にも似た感じのこと伝えたけど、
 無理して背伸びして合わせなくても
 周りが合わせてくれる。
 誰かの真似をしてまで
 無理した人生なんて面白くないだろ?
 お前と同じ人なんかいないんだから
 堂々としてればいい。』
 


泣きながら何度か頷くと、
横から伸びてきた手が頬に触れてから
思いっきり鼻を摘まれた


「痛っ!!」


ビックリして顔をあげると、
目の前に筒井さんの顔があり
一瞬の出来事のように顔が近づいたと
思ったら唇に触れるか触れないか
分からないほどの軽いキスをされた


「‥‥‥‥」


『フッ‥‥‥泣き止んだ。
 次泣いたらまたするからな?
 ほら、鼻出てるからかんでから
 戻って来い。
 顔ぐちゃぐちゃだぞ?』


繋いでいた手が離されると、
筒井さんは立ち上がって階段を
登って行ってしまった。
 

えっ?
嘘‥‥‥‥


幼稚な私を叱ってくれたから、
鼻を摘まれたとこまでは分かるけど、
どうしてキスなんか‥‥


一気に顔が熱くなり
両手で口を押さえる。
泣き止ませるためだとしても、
つ、つ、筒井さん‥今ここに‥‥


驚くどころか
心臓が飛び出しそうな勢いで
ドクドクしながらも、慌てて鞄から
鏡を出して化粧を直すと、階段を
駆け上がった。


『霞ちゃんヤッホー、そんなとこで
 何してんの?』


手を振る蓮見さんの奥で
私を見て口角をあげて笑う筒井さんは
荷物を抱えたまま別荘の中に
入って行ってしまった


『あれ?ん?‥君たち何かあった?』


「えっ?な、何言ってるんですか!
 何もないですから。」


『えー?だって
 顔が、ま、っ、か、だ、よ?』
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