玉響の花雫 あなたにもう一度恋を 壱

荷物を持たれてしまい、
助手席のドアを開けられ
仕方なく乗ると、後ろに荷物を
また置いてくれた。


話ってなんだろう‥‥
GWぶりに乗る車内に
緊張が一気に増してしまう


『今日経理で何があった？』


ドクン


「‥‥会社でお伝えしたこと以外は
　何もないです。」


エンジンがかけられていない為
ものすごく静かな空間が息苦しい


あの時非常階段で会わなければ
良かったのになんで筒井さんは
追いかけてきてしまったんだろう


『じゃあ八木さんから聞いたことは
　お前のことじゃないんだな？』


えっ？
八木さん？


『コピーに来た八木さんにお前がわざと
　ぶつかり業務を妨げられたと
　言われた。』


嘘！！
なんでそんなウソを筒井さんに？


俯いていた顔を勢いよくあげて
筒井さんの方を見た


「‥‥‥やってませ‥。
　私は交換しに行っただけで‥‥
　そんなこと私‥‥してません」


真っ直ぐ向けられていた瞳が怖くて
悪いことをしてないのに責められて
いるような気持ちになり、
出せる声を振り絞って出した


泣くな泣くな‥‥‥


そう心の中で唱えながらも、
スッと伸びてきた手が頬に触れると
溢れた涙を親指で拭っていく


『そんなことお前に出来るわけ
　ないだろ？分かってるから。』


筒井さん‥‥


恐怖と悔しさをずっとずっと
我慢していたのに、筒井さんが
笑ったら止めどなく涙が溢れて
しまった。


『バカだな‥‥あの時も隠れて
　我慢して‥‥。』


腕を引き寄せられると、
温かい筒井さんの腕の中に
閉じ込められ、私はその場で
思いっきり泣いてしまった。


ただ仕事をしただけなのに、
心にもない態度や言葉を言われれば
誰だって傷付いてしまう


総務の人達は温かすぎるし、
あんなことを言う人もいないから
違う部署のことは分からないけど、
あそこに配属されていたらと思うと
怖くてたまらない。


「ごめ‥なさ‥‥」


『謝るな。なにも
　悪いことをしてないんだろう？』


泣きながら腕の中で何度も頷くと
筒井さんが泣き止むまで
頭や背中を何度もさすってくれる


弱っている時に、誰かの温もりが
こんなに安心するなんて思わなかった


「すいません‥‥服汚してしまって」

『気にするな。』


相当泣いてしまったから、
ワイシャツもジャケットも
濡れてしまったと思う


冷静になってくると、抱きしめられて
いたことが急に恥ずかしくなり
筒井さんから慌てて離れ、
ハンカチで目元を押さえた。


『傷口が小さいうちはまだいい。
　これが塞げないくらい大きくなると
　立ち直るのに時間がかかるからな‥』


筒井さん‥‥


「すみません‥‥忙しいのに
　またこうして迷惑をかけました。
　もう大丈夫です。」


顔はぐちゃぐちゃだと思うけど、
筒井さんに分かってもらえたなら
それでいい‥‥。


『フッ‥。お前の大丈夫が
　1番信用出来ないけどな‥‥』


えっ？

『それよりスーパーでこんなに
　何を買ってきたんだ？』