玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
何って言われても‥‥


「晩御飯の材料とか色々です。
 あ‥‥そう言えば
 筒井さんも晩御飯まだですよね。
 すみません、引き止めてしまって。
 も、もう大丈夫なので降ります」


助手席から降りようとすると、
腕を掴まれたあと、
ニヤリと綺麗な顔が笑った


「つ、筒井さん?」


『‥治療がまだだろ?』


「えっ?‥‥ンンッ!」


3度目のキスは2度目よりも長く、
筒井さんが後から言うには、
泣いた時間が無駄に長いからだそうだ。



『フッ‥。茹蛸だな。
 お礼に何か食べさせて貰おうかな。』


「えっ?‥な、何言ってるんですか?
 ‥だ、駄目ですよ、
 うち狭いですし!!」


顔が真っ赤な私の鼻をまた摘むと、
筒井さんが笑った。


結局荷物をまた玄関先まで
運んでくれると、頭を撫でられ
筒井さんは帰って行った。


ご飯を食べてから染み抜きで
落とすとなんとかインクがほぼ取れて
安心してほっとしてしまう


あとは漂白剤でもう少し落ちると
いいんだけど‥‥


お風呂の浴槽に湯を張り
久しぶりに浸かって疲れをほぐす


筒井さんって泣く度に治療って
言ってキスしてくるけど、
もしかしていろんな人に泣く度に
してるとかじゃないよね?
あれは罰ゲームって言ってたし。


亮さんが、手がつけられないほど
女遊びしてたって言ってたから、
こんなキスきっとなんでもないこと
なんだろうけど‥‥


私は触れられるとやっぱり
今も好きだから苦しくなる


もう泣かないようにしないとな‥


気づかないところを気付くし、
よく見てるというか凄いというか‥


親鳥が雛鳥を守って巣立つのを
見守ってくれてるんだと思うけど。


湯船の中で膝を抱えると、
唇に残った感触に恥ずかしくなり
お湯に顔をつけた。


私の小さな傷は治療してくれるから、
筒井さんの傷痕がどれくらいの大きさか
分からないけどその時自分には
何ができるだろうか。



「おはようございます。」


山崎さんが産休に入り、
私も本格的に毎日受付に入るように
なり早いもので7月を迎えていた。


あれから他の課に行くことは
なかったけど、時々仕事が
終わらなくてエントランスで八木さん
とすれ違うことはあった


今だになぜあんな嘘をついたかは
分からないけど、相変わらず
私に向けられてくる視線は
いいものではないと思ってる


『お疲れ様。先に上がるわね?』


「お疲れ様です。」


パソコン業務を
もう少しやっておきたくて
少しだけ残ることにした私は、
その間も社内からかかってくる電話を
受けたりしながら仕事をしていた。


明日のスケジュール管理も
纏めれたしそろそろ帰ろうかな‥


『ねぇ、ちょっといいかしら?』

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