玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
「亮さんこんばんは。
 お久しぶりです。」


『こんばんは。滉一に聞いたけど
 怪我したんだって?大丈夫?』


「はい、もう大丈夫です!」


5月に会った時よりも日に焼けて
逞しさすら感じられる亮さんは
私と筒井さんを交互に何度か見て
嬉しそうに笑った


『腹減ったから限界。こんなとこで
 挨拶してないで行くぞ。』


玄関から向こうへ歩いて行って
しまった筒井さんを見計らって
亮さんが私の耳元で小さく囁いて
きた。


『もしかしてなにか進展あった?』


トクン‥‥


進展なのかは分からないけど、
あの日彼女がいないと言った筒井さんと
私の部屋で何度も‥‥


『あ、うん‥‥‥なんか伝わった。
 滉一のそばにいてくれてありがとう。
 井崎さんを見る表情が柔らかくて
 驚いた。』


えっ?


筒井さんは最初からあんな感じだったから、話し方こそ会社やマスターの前以外はオフモードになるけど、表情なんて
変わったのかな‥‥


「そばにいてもらってるのは
 私なんです。つい甘えてしまって
 申し訳ない毎日です。」


『そうさせとけばいいよ。
 このまま‥』


『おい!亮!早く飯!』


亮さんが何か言いかけた時に、
筒井さんの声が聞こえて来たので、
2人で笑ってから一緒に歩いて
行った。


「‥‥ひ、ひ、広いですね!」


扉の向こうにあった空間は、
もしかしたらここだけで私の1LDKが
収まるのではないかというくらい
広い‥‥


コノ字型の大きなローソファーと
ふかふかのラグのみがある
広々としたリビングに、
6人は座れそうな大きな
ダイニングテーブルがあるダイニング


キッチンだって調理スペースも
広くて四つ口コンロがついている


こんなところをこの年齢で購入って
一体いくらしたんだろう‥‥
恐ろしくて絶対聞けない。


もしかしなくても、
私の家なんて筒井さんから見たら
犬小屋のようなものなのかもしれない


普通に上がってもらったけど
なんかこれを見てしまうと恥ずかしい
し普通に落ち込んだ


「き、今日は亮さんがご飯を
 作ったんですか?」


筒井さんと蓮見さんは料理はしないって
言ってたし、普段から何食べてるのか
気にはなっていた


『俺も拓巳もここのマンションを
 買ったからよくここに集まるんだ。
 なんなら拓巳も呼ぶ?』


えっ?
ここのマンションを買った?

ふ、2人とも!!?


ああこれはもう私の中の常識とかが
全く役に立たない世界すぎてダメだ


『どうかしたか?顔色が悪いぞ?』


「いえ‥大丈夫です。色々と整理
 するのに時間がかかってるだけで‥」


仲が良いとは思ったけど、まさか
住んでる場所まで同じなんて凄すぎて
言葉が出てこない


『井崎さんカレー食べれるよね?』


えっ?亮さんのカレー!?
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