玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
私の腕の傷も3週間もすれば
殆ど目立たなくなり、受付の
制服のみでまた働けるようになった。


『10時に約束してある矢神ですが、
 どちらへ伺えばいいですか?』


「◯◯農園の矢神様ですね。
 ‥‥本日生産課にてお約束
 頂いております。
 右手のエレベーターにお乗り頂き
 3階へ。
 降りて頂きましたら、右手の
 生産課へお越しくださるよう
 承っております。」


『ありがとう。3階で降りたら右手
 だね。丁寧な説明をありがとう。』


佐藤さんと呼吸を整えてお辞儀を
すると、ふぅーっと深呼吸をし、
受話器を取り生産課へ矢神様が
見えて向かったことを伝えた。


『かなりスムーズにご案内が
 出来るようになってきたね。
 もう少しだけ、会話と会話の合間に
 ワンクッション置くと伝わるわよ?』


「ありがとうございます。」


まだまだ失敗したり注意されることも
あるけれど、時々褒めていただけると
やっぱり嬉しくなってしまう。


個人情報を取り扱う場所の為、
気が抜けないのは仕方ないけれど、
電話応対や来客対応をもっと学んで
自分の引き出しを増やしたいな‥


「佐藤さん、午前の郵便物を
 各部署に届けに行って来ます。」


インカムの電源はつけたまま、
何かあったらすぐに戻れるようにして
各部署ごとに仕分けされた配達Boxを
抱えるとエレベーターホールに
向かった。


こちら側からの
急ぎの郵便や速達、書留なども
集荷に来た郵便局員さんにすぐ
渡せるように午後1時に毎日
佐藤さんと交代で届けているのだ


「お疲れ様です。
 郵便物の受け取りとサインを
 お願いします。」


必ず渡す時に、各部署から
受け取った人のサインを貰うのは、
万が一なくなったりしたら大変な
事に成りかねない為、ミスを防ぐよう
決められたルールだ。


時々忙しそうにしてると
面倒がられる事もあるけれど、
みんなサインやハンコをちゃんと
手を止めてしてくれる。


「ありがとうございました。
 失礼します。」


2階から20階まで移動するのも
結構大変で、全ての部署を回ると
1時間近くかかることもあるけど、
運動不足解消にもなるし私には
ちょうどいいのだ。


「失礼します。
 郵便の受け取りお願いします。」


人事に行き、気がついてくれた方に
手紙を渡すと、奥で電話をしていた
筒井さんと一瞬目が合う


相変わらず忙しそうだな‥‥

なかなか会えないから、こうした
偶然でも顔が見えるとホッとする。


「ありがとうございました。
 失礼します。」


総務にも寄り総務課を出ると、
人事から出て来た筒井さんと偶然
エレベーターホールで出会った


「お疲れ様です。」

『お疲れ様。何階?』
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