玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
『会社っていうのはさ、
 信頼があって成り立ってるような
 ものなんだよ。外部に漏らせないから
 会議室で話す事もあるし、場所に
 よっては監視カメラに
 撮られる事もある。それは霞ちゃんが
 1番分かってると思うけど?』


ドクン‥


前に筒井さんに言われた。
どれだけ監視カメラがついてるか
分かってるか?って‥‥


私のこの怪我のことだって
記録があったから分かったことだ。


カメラがあるから場所を変えて
面談って言ってくれたの?


何の話だったのかなんの面談なのか
帰って来てしまった以上は
もう分からない。


「蓮見さん私‥‥」

『ストップ。』

えっ?

『今から口にすることはさ、
 本人にちゃんと伝えた方がいい。
 霞ちゃんがどうしても行きたいなら
 送っていくけど?』


送ってくって‥‥何処に‥


『今も溜まった仕事できっと
 残業してるはずだから。』


蓮見さんは誰のこととは言わないけど、
そんなのもう分かってる。


「蓮見さん、お願いします!」


夜19時過ぎに、
エントランスから走りエレベーターに
乗り7階のボタンを押した


夏の残暑が暑くて汗が額に
滲んでしまうけど、少しでも早く
筒井さんに会って謝りたかったのだ


勤務中に仕事の話で来てくださったのに、プライベートな気持ちを優先して
帰ってしまった


もう遅いかもしれないけど、
今はただ会いたかった‥‥


「はぁ‥はぁ‥‥嘘‥‥いない?」


既に照明が落とされてしまい
薄暗い総務と人事のフロアに、
廊下の壁にもたれる


ノー残業DAYだから、さすがに
2時間も経てば帰ってしまったよね‥


せっかく蓮見さんが
送ってくださったのに
迷惑をかけるだけになってしまい
申し訳なくなってきた


あの時逃げずにちゃんと会いに来てくれた筒井さんの話を聞けてたら‥‥


目頭が熱くなりつつも、
いつまでもここにいるわけにも行かず、
エレベーターホールに向かい↓のボタンを押した。


電話して謝るのも違うし、
メールなんて尚更違う


自分から逃げたくせに
会って話したいなんて酷いヤツだ。


到着したエレベーターのドアが
開いたので、涙を拭うと
目の前にいた相手に持っていた鞄を
落としてしまう


「‥‥‥筒井さ‥‥なんで‥」


その瞬間、あっという間に
温かい腕に抱き締められ、
力強い腕の中に閉じ込められた。


『お前ここで何して‥‥』


抱き締める腕に力が込められると、
また涙が溢れてしまいそうになるけど、
私は腕の力を入れて筒井さんの胸を
ぐっと押して離れた


「‥‥すいませんでした。
 勤務中なのに帰ってしまい‥
 ご心配とご迷惑をかけました。
 申し訳ありません。」


エレベーターがそこで止まったまま
扉が閉じると、一気にそこが
暗くなってしまったけど、私は
筒井さんに向かって頭を深く下げた
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