玉響の花雫       あなたにもう一度恋を 壱
蓮見さんが言っていた相当頑張って
動いてたってこの事だったの?


『怪我はもう治ったのかい?』

「はい。」

『そうか‥‥。
 筒井くんには話をしたのだが、
 やはり業務内容による喧嘩や
 会社の仕事のことで起きてしまった
 怪我なら通ったのかもしれないが、
 今回はあくまでも社には関係のない
 内容だったから、井崎さんには
 申し訳ないが労災が降りなかった。
 すまなかったね。』


「い、いえ‥‥」


コンコン

『社長お時間です。』

『分かった。
 ‥‥筒井くんと井崎さん、
 すまないがこれから会食でね。』


『いえ、お忙しい中
 ありがとうございます。』


「ありがとうございました。」


筒井さんともう一度社長に頭を
下げると社長室を出てから
またエレベーターに乗り込むと
そのまま地下一階のボタンを
筒井さんが押した。


「あの‥‥わたし」
 

『もう今日は遅いから送ってく。
 話は後で聞くから。』


私の方も見ずにそう答えると、
鞄の取手を握る手に力が入り
目頭が熱くなる


わたしのために、忙しい中
動いてくれていたなんて知らなかった


今日見たのも八木さんにあの日のことで
話していたかもしれないのに‥‥


考えが浅はか過ぎて恥ずかし過ぎて
筒井さんの横に立っていることにも
申し訳なくて涙が込み上がる



『乗って。』


「失礼します‥」


バタンと閉じられた扉に、
零れ落ちそうな涙をハンカチで押さえる


『またお前は泣いて‥‥』


「すみませ‥‥私‥何も知らなくて。
 私のせいで沢山迷惑を‥」


私が泣くべきではないし、
ちゃんと謝りたいのに涙が止まらず
ハンカチで目元をグッと押さえる
 


『悪かった。業務上話せなかったから
 結果的にお前を不安なさせたな。』


頭を撫でてくる手が優しくて
余計に涙が止まらない。


『安心していいなんて言ったのに、
 何もしてやれなかった。』


首を何度も横に降ると、
筒井さんに腕を引かれ、さっきみたいに
優しく腕の中に私を入れて
抱きしめてくれた


『今日、経理で震えてたお前に
 気付いてた。』


えっ?


私を腕の中から離すと、
涙が流れる頬に手を寄せて、
優しく涙を拭ってくれ、
少し悲しそうに笑った


『午後の仕事が手に付かないくらい
 お前のことが心配だった。』


筒井さん‥‥


『‥‥もう安心していい。
 労災は無理だったから休んだ分や
 遅刻した分、医療費は負担に
 させてしまったけど、その代わり
 部長と社長と相談して
 八木さんには今後お前と一切接触
 しないという念書に
 サインさせたから二度とこんなこと
 起きない。もう震えなくても
 怖がらなくてもいいんだよ。』


えっ?
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