クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「これは何?」

 とある屋台につるされた、ハート型の大きなクッキーのようなものを指差した。飾りなのか、食べ物なのか。

「レープクーヘン。クリスマスの飾りだ。はちみつや様々なスパイスを入れたクッキーみたいなもので、食べることもできるが――」

 祐駕くんが不意に言葉に詰まったので、「ん?」と彼の顔を覗いた。

「――俺はあんまり、好きな味じゃない」

 そっぽを向いてそう答える祐駕くんは、なんだか可愛い。思わずふふっと、笑ってしまった。

「祐駕くんでも苦手なものあるんだね」
「そりゃ、あるだろ」
「なんか意外。何でもスマートにできちゃうから、嫌いなものなんてないと思ってた」
「俺はサイボーグかロボットなのか?」

 くだらない冗談に互いに笑い合いながら、私たちはクリスマスマーケットを進んでいく。

「ちなみに、おすすめの食べ物ってある?」

 祐駕くんは、うーん、と少し考えて。

「クリスマスマーケットの定番といえば、やはりライベクーヘンだな」
「らいべ、くーへん?」

 聞き返すと、祐駕くんは辺りを見回し、「こっち」と私の手を引いた。
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