クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 それからしばらく、クリスマスマーケットを散策していたのだけれど、胸の内ではなんとなくあの少女が気がかりだった。

「あ」

 道の先に、あの少女を見つけた。別の観光客らしき人に、何かを話しかけている。

「祐駕くん」

 名を呼び、目配せをする。

「あの子……」

 私は思わず、祐駕くんの手をきゅっと引いた。どうしても、少女が気になってしまう。

「分かった」

 祐駕くんは一度こちらに優しい笑みを浮かべる。それから、私の手を引いて少女の元へ。

 祐駕くんが話しかけると、少女はピクリと肩を揺らして逃げようとした。
 けれど、祐駕くんはその少女の行く手を遮り、何かを話す。ドイツ語だから、何を話しているのかは分からない。

 祐駕くんはポケットに手を入れて、少女に先ほど買ったマジパンを二つ差し出した。すると少女はそれを奪うように取り、また闇の中に去って行った。
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