クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「今もまだ部分的には残っている。ドイツは統一されて、今は平和だが――随所に、残酷な歴史が刻まれている」
「戦争のことなら、私も知ってる」

 学生時代に学んだ、世界の歴史。国同士の戦い、残虐な過去。巻き込まれた人々の、行き場のない想い。その悲しい歴史に想いを馳せてしまい、不意に目頭が熱くなった。

「俺は、世界を平和にしたい」

 小さな、けれど力強い声。祐駕くんの方を向くと、優しい笑みを返された。

「俺が外交官になったのは、それが理由なんだ」

 祐駕くんは言いながら、私の頬目元を優しく拭ってくれた。

「映茉を連れて行きたい場所がある。一緒に、来てくれるか?」
「うん」

 私たちはなんとなくしんみりとした気分のまま、カフェを出た。
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