クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「嘘……」

 思わず、胸元を押さえてしまった。

 持ってきたドレスは友人の結婚式で着たもの。胸元がVネックに開いているデザインがお気に入りなのだが、鏡に映った自分を見て、気づいてしまったことがある。

「どう?」

 祐駕くんの声が扉の向こうから聞こえた。

 今さら行けない、なんて言えないよなぁ。

 私は恥ずかしさと戦いながら、思い切って扉を開けた。

「どうしよう! このドレスじゃ行けないよね!?」

 上半身にウイングカラーシャツを羽織った祐駕くんが、私の指差した胸元を見る。
 そこには、昨夜祐駕くんにたっぷりと付けられた、赤い痕が見えていた。

「俺は全然、それでもいいけれど」

 祐駕くんはそう言ったけれど、私は羞恥でいっぱいだ。

「もう!」

 小突くと、祐駕くんは少しだけクスクス笑う。けれど、すぐに「分かった、買いに行くか」と、着ていたシャツを脱ぎだした。

「え、パーティーの時間大丈夫なの?」
「全然余裕」
「じゃあ、何で早く準備しようって――」
「俺が映茉のドレス姿を堪能したかったから?」

 意味深な笑みを向ける祐駕くん。
 彼は一体、私を何度ドキドキさせる気なのだろう。
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