クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「映茉」

 聞こえた声に振り返る。店員に呼ばれたらしい祐駕くんが、試着室の入口からこちらを見ていた。

「似合ってる」

 祐駕くんは優しい笑みでそう言うと、店員に何かをドイツ語で告げる。どこかへ店員が行ってしまうと、試着室の中に祐駕くんと二人きりになった。

 祐駕くんは私に近づき、私の首元をそっとなぞる。ドレスの上につけた、祐駕くんにもらったネックレスのチェーンに、彼の指が触れた。

「これ、ずっと着けてるんだな」
「うん。でもこのドレスの形には、合わないかな?」

 不安になり、思わずそのトップを握ってしまう。祐駕くんは「いや」と言いながら、私の髪をすくってそこに優しく口づけた。
 ドキリとするも、祐駕くんはクスリと優しく笑う。

「髪も、ついでにセットしてもらおうか」

 祐駕くんがそう言うと、試着室に店員が戻ってきた。その手には、ワインレッドのショールが握られていた。

「うん、いい色だ」

 祐駕くんがそう言うと、女性店員は私の肩にショールをかけ、手前で巻いて留めた。
 ベアバックの背中は隠されてしまったけれど、ドイツの夜は冷えるからという祐駕くんの優しさだと思う。

 鏡に映った私の顔は、ほんのり赤い。ただドレスに着替えただけなのに、私はどれだけドキドキさせられるのだろう。
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