クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
『そうだ、』

 不意にフリートベルクさんが、ドイツ語に切り替え祐駕くんに話しかける。
 祐駕くんは少しだけ難しい顔をして、その話に聞き入っている。

 私はこちらに向けられる、エミリアさんからの視線が気になって仕方ない。

「祐駕くん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 申し訳ないと思いつつ、フリートベルクさんとの会話を少しだけ遮って祐駕くんに告げた。

「ああ。この扉から出て右だ。一人で平気か?」
「大丈夫、子ども扱いしないで」

 冗談で気持ちをごまかし、レセプションから一人、お手洗いへと向かった。

 個室で気持ちを落ち着け、洗面台へ向かう。鏡に映った自分は、むすっとしていて、可愛くない。
 先ほどサロンで見た時とは全然違う顔になっていて、これじゃだめだと表情筋に力を入れた。

 どうか、魔法は解けないで。
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