クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 よし、と気合を入れて、レセプション会場へ戻る。けれど、そこでは祐駕くんとエミリアさんが、互いに笑顔で楽しそうに話していた。

 遠くから見れば、お似合いな美男美女。きっと私とは、世界が違うんだ。
 結婚したのは私なのに、なぜか二人を邪魔しちゃいけない、という衝動に駆られる。

 私は壁の花になり、シャンパンをいただいた。ぱちぱち、シュワシュワと弾けて消えていく泡は、まるで私の気持ちみたいだ。

 ため息を零し、視界に祐駕くんを入れないようにした。ゴクリ、とシャンパンを喉に流し込む。すると、頭上からドイツ語が降ってきた。

 顔を上げると、見知らぬ男性が立っている。

『ごめんなさい、ドイツ語分からなくて』

 英語で話しかけると、彼は「Sorry?」と英語に切り替えて話しかけてきた。

『素敵なドレスだね、お嬢さん』
『ありがとうございます』

 祐駕くんが選んでくれたからかな。嬉しいけれど、今は複雑な気持ちだ。

『女性らしいスタイル。可愛らしい』

 すると男性は、私の腰に手を伸ばしてくる。

 え?

 驚きで動けない私の腰に彼の手が触れそうになり、ぞわりと背が粟立った。

 その時、男性の後ろからやってきた影が、彼の手首をつかむ。

『彼女は私の妻だ。指輪が目に入らなかったか?』
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