クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 すんでのところで私を助けてくれたのは、祐駕くんだった。

『すまない祐駕。つい、可愛かったから』

 顔をしかめた祐駕くんは、まだ「Sorry」と謝り続ける男性を睨む。苦笑いを残して男性が去って行くと、祐駕くんは私の腰をぐっと抱いた。

「ごめん」

 言えば、祐駕くんも申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「俺の方こそ悪かった、一人にしてしまった」
「ううん、いいの。祐駕くん、エミリアさんと楽しそうにしてたから、入れないなーって」

 思わず苦笑いが浮かぶ。モヤモヤしていた気持ちが、嫉妬だと気づいてしまったから。

 私、祐駕くんのこと、こんなに好きになってたんだ。

 気持ちに気付けば、抱かれた腕に意識が行ってしまう。

「エミリアとは、そういう関係じゃない。俺の妻は、映茉だろ?」

 耳元で囁かれ、顔を上げれば優しい笑顔がある。トクリと胸が甘く跳ね、恥ずかしくなって目をそらした。

 すると、向こうの方にいたエミリアさんと目が合った。

 どうやら、睨まれていたらしい。けれど、目が合った瞬間に、お嬢様然とした笑みを向けられる。その笑みは、何か意味を含んでいる気がする。

 けれど、今は隣に祐駕くんがいてくれる。だから、この魔法はとけないと、そう思えた。
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