クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「その格好じゃ、さすがに冷えただろ」

 レセプションから帰宅すると、祐駕くんはそう言ってお風呂を沸かしてくれた。

 祐駕くんの家だから先にどうぞと勧めたのだけれど、祐駕くんに「お客様が先」と、笑顔で脱衣場へ押し込められてしまった。

 だったら急いで入ろうと、さっさとシャワーを浴びてお風呂を出る。けれど、私が上がる頃には祐駕くんは寝室のベッドで、ジャケットを脱いだ姿で寝ていた。

「祐駕くん…?」

 呼びかけてみるけれど、祐駕くんは寝息を立てるだけ。

 今夜も抱かれるかも、と、ちょっとだけ期待していた。
 けれど、祐駕くんはあれだけ長時間、一人で車の運転をしてくれた。疲れも溜まるはずだ。

 起こしたら悪いな。

 私はありがとうと胸の内で告げ、そっと寝室を出るとリビングのソファに腰かけた。

 祐駕くん、ここに住んでるんだなぁ。
 改めて、祐駕くんがドイツの住人であるということを意識した。

 すると、脳裏にエミリアさんの顔が浮かんだ。
 私の知らないドイツの祐駕くん。それを、エミリアさんは知っているのかもしれないと思うと、無性に胸がトゲトゲした。
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