クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 今日は遅番。最終電車を見送り、駅の中にお客様がいないか見回りをして、駅のシャッターを下ろす。

 駅の一日はここで終わり。
 ひと仕事終えた開放感で宿舎に向かっていると、ちょうど最終電車を車両基地に運んできたらしい旭飛と出会った。

「ドイツ土産、さっきもらった。サンキュ」

 旭飛は運転士の黒鞄と反対の手に、私が置いておいたグミを一袋持っていた。

「あ、旭飛にはちゃんとお土産あるんだ!」

 私は宿舎への道を旭飛と並んで歩きながら、鞄からマジパンを取り出した。

「何だよ、この豚」

 旭飛はグミをジャケットのポケットに放り、手渡した豚を見てケラケラ笑う。口元がニカっと開いた豚のキャラクターは、旭飛に似ていると思って選んだものだ。

「ドイツでは幸運のシンボルなんだって。ちなみに、この豚ちゃんが右手に持ってるのはラッキーマッシュルームっていう幸運のキノコ。で、左手に持ってるのが――」
「四葉のクローバー。全部幸運のシンボルってことか」
「うん。ドイツでは年末年始の挨拶に、身近な人の幸せを願ってこれを贈るんだって。だから」
「へえ」
< 150 / 251 >

この作品をシェア

pagetop