クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 旭飛はしばらく手の中にあるそれを見つめる。それから不意に、こちらを向いた。

「ドイツ、どうだった?」
「寒かった」
「そう言うことじゃねえよ。久しぶりに旦那に会ったんだろ、だから」
「ああ、……うん。まあ、楽しかったよ」

 ノイシュバンシュタイン城とかミュンヘンのクリスマスマーケットは楽しかったから、別に嘘は言っていない。

 けれど少しの不安から胸が苦しくなって、私はきゅっと、胸元の名札を握った。新しくなった、【持月】の苗字の名札だ。

「あ、名札変わってる」

 気づいた旭飛がそう言って、「本当に結婚したんだな」とこぼした。

 旭飛の言葉に、ピクリと身体が震えた。

「そうだよ、〝結婚〟した」

 私と祐駕くんが結んだのは、法律上の関係だけれど。

「旦那と離れ離れだからって、そんな顔すんなよ」

 旭飛が私の顔を覗き込む。
 どうやら、私が寂しいのだと勘違いしてくれているらしい。

「うん、そうだね。ごめん、平気!」

 だから私は無理やりに、頬を引き上げて笑みを返した。
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