クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 案内人は扉を開くと「こちらです」と私を促す。

 その、まさかだった。間接照明がムーディーな個室は、二面が全面窓の開放感。美しい夜景の煌めきの手前で、持月くんが軽く私に手を挙げた。

 案内人は椅子を引き、私が座るとさっと手元にメニューを渡してくる。

「え、えっと……」

 困っていると、持月くんが口を開く。

「咲多、食べられないものはあるか?」
「いや、特には」
「お酒は?」
「ごめん。今日は遠慮しておいていいかな」

 明日も仕事だから、お酒は飲まないでおく。と、向かいに座っていた持月くんは私から優しくメニュー表を抜き取った。

「いつものものを。今日はワインはいい。ミネラルウォーターにしてもらえるか?」
「かしこまりました」

 流れるように注文を終えた持月くんは、やっぱり流れるようにウェイターにメニュー表を手渡した。その行為すら様になっていて、〝一流〟とはこういう人のことを言うのだろうと、不意に思った。
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