クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 けれど、朝明台駅の改札を出たところで、はっと立ち止まる。

 私の帰る場所は、祐駕くんと暮らすために引越したあのマンションだ。今から帰ったところで、祐駕くんも後から同じ部屋に帰ってくる。

 どうしよう。何もないけれど、前の家に帰ろうかな。

 考えている間に、涙が溢れ出した。

 何してるんだろう。
 結婚したのは私なんだから、妻は私なんだから、堂々としていればいいじゃない。

 そうできないのは、私の弱さだ。
 愛されていないことが悲しい。
 私よりも、祐駕くんにエミリアさんがお似合いなのが悔しい。

 日の暮れた朝明台駅。祝日の今日、この駅舎は閑散としている。
 私はとぼとぼと改札口の端に寄った。ぽたぽたと涙が零れ落ちてくる。

「映茉?」

 私の名を呼ぶ声に振り返ると、帰宅途中らしい、私服姿の旭飛がこちらを見ていた。
< 164 / 251 >

この作品をシェア

pagetop