クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜

彼の気持ちと私の気持ち

「どうしたんだよ!」

 目が合ってしまい、慌てて涙を拭いて笑みを浮かべた。けれど、そんな取って付けたような笑顔では、何もごまかせない。

 旭飛がこちらに駆け寄ってくる。
 私はどうしたらいいか分からなくて、ただ視界をさまよわせて戸惑うだけだ。

「旦那さん、何かあったのか? 飛行機遅れてるのか? 向こうの天候悪化で、飛べなくなったとか?」
「ううん、何でもない。心配してくれて、ありがと」

 自分の前に手をかざし、私は早々に足を踏み出した。
 駅舎の階段を、足早に降りてゆく。

「何でもなくないだろ。そんなに泣いて」

 旭飛が追いかけてくる。言われたせいで、必死に止めていた涙がまたあふれ出した。
 惨めな泣き顔を旭飛なんかに見られたくなくて、逃げるように足を早めた。

「大丈夫だから、今は一人にして」

 出した声は震えていた。だから、駆け出そうとした。
 なのに。
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