クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
 冷たい夜風に吹かれながら、家路を歩いた。

 大きなキャリーケースを転がす祐駕くんは、反対の手で恋人繋ぎをしてくれる。それだけで、心がぽかぽかと温かい。祐駕くんの行為が全部、本物の愛だったと分かったからだと思う。

「勘違いさせて悪かった。言葉足らずだったこと、反省している」

 祐駕くんは言いながら、しゅんと肩を落とす。
 なんだか、そんな祐駕くんが可愛いと思ってしまった。

「エミリアに言われて気づいたんだ。この気持ちが、愛なのだと」
「エミリアさん……?」

 突然出てきた彼女の名前に、胸がぞわりと嫌な音を立てた。
 思わず立ち止まってしまい、祐駕くんが振り返る。

「どうした?」
「あの……」

 私は繋がれた手にきゅっと力を込めた。
 大丈夫、祐駕くんの気持ちはここにあるんだから。
 ふう、と息を吐き出し、口早に問う。

「エミリアさんと、空港で一緒だったよね?」
「空港まで来てたのか?」

 祐駕くんは一度目を見開く。けれどすぐに、ため息を零しながら申し訳なさそうに眉をひそめた。

「それで余計に誤解させたんだな。悪かった。確かに、羽田までは一緒だった。だが――」

 やっぱり、と思うと、胸がドクドク言い出す。
< 178 / 251 >

この作品をシェア

pagetop