クールなエリート外交官の独占欲に火がついて 〜交際0日な私たちの幸せ演技婚〜
「え?」

 持月くんはまったく表情を変えずに淡々と、私の渡したファイルと紙袋に感謝状を仕舞いながら言葉を紡ぐ。

「咲多だったらどうするか考えたら、勝手に身体が動いたんだ」

 私だったらどうするかって……私のこと、覚えてたの?
 そんな心の中の疑問を読んだかのように、持月くんは続きを話し出した。

「咲多、高校入試遅刻したろ」
「何で知ってるの!?」
「面接順、お前の次だった」
「嘘……」

 誰にも知られてないと思っていた。高校の前期入試は内申点と面接およびディベートの点数によって合格か否かが決まるのだが、私はその面接試験に八分も遅刻してしまったのだ。

 あの時は、急いで教室をノックして、入ってすぐに遅刻したことをお詫びして、理由を口早に告げたっけ。けれど、結果は不合格。後期試験の筆記試験で合格したから良かったものの、今となっては苦い記憶だ。

「高校の前の横断歩道、渡れないおばあさん手伝ってよな。見てた」
「見てたって……よくそんなこと覚えてるね」
「そりゃその後、教室の前で順番待ってたらさっき人助けしてた女が階段駆け上って教室に入っていくんだから。覚えるだろ」
< 18 / 251 >

この作品をシェア

pagetop